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2010年5月の読書メーター [a day in the life]

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石持浅海:『セリヌンティウスの舟』(光文社) [book]

セリヌンティウスの舟 (光文社文庫)

セリヌンティウスの舟 (光文社文庫)

  • 作者: 石持浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/05/13
  • メディア: 文庫

配偶者が所有していたので借りて読む。基本的に読書の傾向はダブらないのだが、著者だけは珍しい例外。どうやら当方よりも先に著者の作品のおもしろさを発見していたようだ。


内容(「BOOK」データベースより)
大時化の海の遭難事故によって、信頼の強い絆で結ばれた六人の仲間。そのなかの一人、米村美月が、青酸カリを呷って自殺した。遺された五人は、彼女の自殺に不自然な点を見つけ、美月の死に隠された謎について、推理を始める。お互いを信じること、信じ抜くことを、たったひとつのルールとして―。メロスの友の懊悩を描く、美しき「本格」の論理。


本書を読み終えると残りは、『 顔のない敵、『 人柱はミイラと出会う 』そして『 リスの窒息 』を残すのみ。いずれも購入済みだが、勿体ないので中毒症状が出始めたら読むことにしよう。

さて、本書については正直なところあまり期待しないで読み始めた。というのも、Amazonのカスタマーズレビューで高得点でなかったことや、題材がちょっと地味なんじゃないの、という理由からだった。が、それはまさに杞憂だったようだ。

まあ、一般的には怪体な小説といえるだろう。仲間の自殺の不審な点を解き明かしていくディスカッションを延々と続けていくのだから。おそらくは小説内時間で3時間程度くらいだろう。近年のミステリとしては短尺なほうだが、とにかく、ここまでディスカッションによる推理に特化した小説は珍しいのではないかと思う。

そして、著者のエッセンスが凝縮された小説であるとも感じた。平凡なサラリーマンながら知力に優れた登場人物たち・どこかずれた倫理観・特異な状況下における人間の行動などなど。ザ・石持浅海、みたいな小説。

ストーリーが地味そうという予断で読むのが後回しになってしまっていたことが悔やまれる。もちろん、著者のファンは既読だろうが、当方と同じような感覚で食わず嫌いになっている人がいるならば、そこはかとなくお奨めしておこう。


◎関連エントリ
 ・石持浅海:『賢者の贈り物』(PHP研究所)
 ・石持浅海:『扉は閉ざされたまま』(祥伝社)
 ・石持浅海:『水の迷宮』(光文社)
 ・石持浅海:『R のつく月には気をつけよう』(祥伝社)
 ・石持浅海:『君の望む死に方』(祥伝社)
 ・石持浅海:『耳をふさいで夜を走る』(徳間書店)
 ・石持浅海:『ガーディアン』(光文社)
 ・石持浅海:『温かな手』(東京創元社)
 ・石持浅海:『まっすぐ進め』(講談社)
 ・石持浅海:『BG、あるいは死せるカイニス』(東京創元社)
 ・石持浅海:『君がいなくても平気』(光文社)
 ・石持浅海:『月の扉』(光文社)
 ・石持浅海:『心臓と左手』(光文社)
 ・石持浅海:『攪乱者』(実業之日本社)
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『サンシャイン・クリーニング』 [dvd]

サンシャイン・クリーニング [DVD]

サンシャイン・クリーニング [DVD]

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • メディア: DVD
原題: Sunshine Cleaning
監督: クリスティン・ジェフズ
脚本: ミーガン・ホリー
出演: エイミー・アダムス、エミリー・ブラント、アラン・アーキン、ジェイソン・スペバック、スティーブ・ザーン、メアリー・リン・ライスカブ、クリフトン・コリンズ・Jr.
製作国: 2009 年アメリカ映画
上映時間: 92分
配給: ファントム・フィルム

内容(「Oricon」データベースより)
「リトル・ミス・サンシャイン」のプロデューサーチームが贈る、ぶきっちょ姉妹の心温まるファニーストーリー。高校時代はチアリーダーのアイドル、30代の今はシングルマザーでハウスクリーニングの仕事をする傍ら、かつての恋人と不倫中の姉・ローズ。妹・ノラは父親と実家暮らしを送っている。ローズは家族のピンチを乗り切るため、妹と一緒に事件現場をクリーニングする、ちょっと危ない“清掃業”をスタートさせるが…。


別に狙ったわけではないのだが、前日のエントリに続けて、本作も特殊清掃請負を職業とする主人公の物語だ。とはいっても、『 ザ・クリーナー 消された殺人 』がサスペンスだったのに対し、本作はヒューマンドラマと位置づけられる。

基本的には、姉妹あるいは家族の絆の再生物語であり、新しいところはほとんどないと言っていい。かつて高校時代は花形のチアリーダーであった主人公の今とのギャップであるとか、自殺した母親に関するトラウマなど、良くある話と言ってしまっていいかもしれない。

それら様々なパーツが一本の映画として構成されると、なぜかほろ苦くも心温まるストーリーになるということの不思議さがある。もともと浮かばれない主人公だが、物語の終盤に至ってさらに浮かばれなさ度が上がっているのに、最後には希望が仄見えてくる、ということも理由にはあるかもしれない。

また、出演者の、エイミー・アダムス、エミリー・ブラント、アラン・アーキンのいずれもが抑えた好演振りも作品の完成度に寄与している。特に、当方が注目したいのは清掃用品業者のウィンストンを演じるクリスト・コリンズ・Jr.だ。

これまた劇場で鑑賞できずに後悔することになった作品。いわゆるミニ・シアター系の作品ではあるが小難しいところはなく、単なるエンタテインメントとして一過性のおもしろさを味わうためだけではない、鮮やかな余韻を残す作品になっている。 一定程度の年齢の方にはお奨めできるだろう。


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『ザ・クリーナー 消された殺人』 [dvd]

ザ・クリーナー 消された殺人 [DVD]

ザ・クリーナー 消された殺人 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: DVD

原題: Cleaner
監督: レニー・ハーリン
脚本: マシュー・アルドリッチ
出演: サミュエル・L・ジャクソン、エド・ハリス、エバ・メンデス、キキ・パーマー
製作国: 2007年アメリカ映画
上映時間: 90分
配給: リベロ


【ストーリー】
元警官のトムの職業は、犯罪や事故現場の血痕などを取り除く特殊な清掃請負業。
ある日、いつものように大邸宅の殺人現場の痕跡を完璧に除去するが、その清掃の依頼主は、なんと架空の人物だった。
そして、邸宅の主・名士のジョン・ノーカットが行方不明と報道される。
市警察汚職収賄事件を巡る陰謀の影がちらつくなか、ついにはトム自身が殺人の容疑をかけられる。
真相を探る彼の前に暗い口を開けるのは、自らの警官時代の消し去れぬ過去‥。
誰が殺したのか?
そして、誰がトムをはめたのか?


B級映画の雄(と当方は認識している)レニー・ハーリンが仕掛けるサスペンス作品。確か、公開時にはあのシネパトスでしか掛かっていなかったので鑑賞しなかったのだと思う。サミュエル・L・ジャクソンやエド・ハリスという一線級の俳優が出演しているのに、というのはあったが、おそらく内容がそれなりだったんだろうという予測はあった。

冒頭から、主人公の几帳面さをのぞかせるシーンや特殊清掃請負業のテクニックなど、調子の良い滑り出しに期待感は高まる。元警官の主人公とその不穏な過去や警察内部での汚職疑惑など、良くある話に収束していくのかと思って鑑賞していた。

いや、まいった。良くある話ではあるんだが、これまた違った意味で良くある話にレニー・ハーリンはオチを持って行ったのだった。これはどうなんだろう。おハナシとしてはどう考えたって意表をついているとは言い難い。もう少し驚かせてくれると思ったんだが。主たる三人の演技が良いだけに脚本の凡庸さが惜しい作品だといえる。まあ、無理して観ることはないかも。


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『あなたは私のムコになる』 [bd]

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原題: The Proposal
監督: アン・フレッチャー
脚本: ピーター・チアレッリ
出演: サンドラ・ブロック、ライアン・レイノルズ、マリン・アッカーマン、クレイグ・T・ネルソン、メアリー・スティーンバージェン、ベティ・ホワイト
製作国: 2009年アメリカ映画
上映時間: 108分
配給: ディズニー


<ストーリー>
マーガレット(サンドラ・ブロック)はニューヨークの出版社のやり手編集長。ある日、会長に呼び出されたマーガレットは、思いもよらない事実を告げられる。カナダ人の彼女は、ビザの申請を後回しにしていたせいで、なんと国外退去を命じられてしまったのだ。今まで積み上げてきたキャリアを守るため、マーガレットはそのとき部屋に入ってきた28歳のアシスタント、アンドリュー(ライアン・レイノルズ)との結婚を宣言。唖然とするアンドリューに「NOと言ったらお互い失業よ」と言い放ち、結婚へとまっしぐらに突き進む。まるで仕事のように“こと”を進めようとするマーガレットだったが、アンドリューの家族の温かさに触れるうち、次第に後ろめたさを感じはじめ・・・。


なんだか、このジャンルの映画が好きなようだ。紆余曲折はあっても、主人公の男女はラストでは必ず結ばれる。めでたしめでたし。当方は映画の歴史のことはよく知らないが、映画という装置ができた段階で、このジャンルは存在しただろうし、これからも存在し続けるに違いない。

というわけで、サンドラ・ブロック演じる女編集長が、国外退去を免れるために部下の男と偽装結婚するというストーリーは、鑑賞者が想定する進路をきっちり辿りながらハッピーエンドまで進んでいく。このことについて文句は全くない。おもしろさについても一定水準に達しているし。

本作で少しだけ変わっているのは、部下の男(ライアン・レイノルズ)の実家がアラスカにあるという舞台設定。冒頭の主人公たちの出勤風景とアラスカののんびりとした雰囲気の対比がおもしろい。

あと、その実家の祖母と両親の家族の物語になっていること。ライアン・レイノルズは祖母の誕生日に還るという設定だから、これで実家が大家族だったら『 サマーウォーズ 』だな。いや、それはともかく、洋の東西やジャンルを問わず、家族という共同体に関する物語の数は体感的には増えてきていると思う。

もちろん、鑑賞しなくても困ったりしない映画ではあるが、映画館で観ても愉しめただろう。気負うことなく、土曜の午後に鑑賞するには良い映画だと思う。


あなたは私のムコになる/ブルーレイ(本編DVD付) [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント
  • メディア: Blu-ray

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『ホワイトアウト』 [bd]

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原題: Whiteout

監督: ドミニク・セナ
原作: グレッグ・ルッカ
脚本: ジョン・ホーバー、エリック・ホーバー、チャド・ヘイズ、ケイリー・W・ヘイズ
出演: ケイト・ベッキンセール、ガブリエル・マクト、トム・スケリット、コロンバス・ショート、アレックス・オローリン、ショーン・ドイル
製作国: 2009年アメリカ映画
上映時間: 101分
配給: ワーナー・ブラザース映画

■■■
映画館で映画鑑賞する機会が少なくなったことで、一つだけ良いことがある。それは、予告編を観ないで済むようになったことだ。いや、確かに、予告編で鑑賞意欲を掻き立てられることも多いんだが、それ以上に予備知識を持たずに鑑賞に臨めることの意義は大きいのだ。

本作は近所の映画館で掛かっていたので、鑑賞しようと思えば行けたんだろうが、なんとなくスルーしてしまった。予告編を観ていれば行ったかもしれないし、観ていなかったので予備知識がなくて良かったともいえる。結果は、当方好みだったので映画館で観たかった、というところだ。


ストーリー
米国連邦保安官のキャリーは、あと3日で2年間の南極勤務を終えようとしていた。そんな中、胸を一突きにされた奇妙な他殺体が発見される。それは南極大陸初の殺人事件。捜査を始めた彼女は、氷土の下に長い間埋もれていた衝撃の事実を知るが…


原作はグレッグ・ルッカという作家のグラフィック・ノヴェル。同じ作者ではないけど、いま手元には『 WATCHMEN 』のグラフィック・ノヴェルがあるんだが、まだ封を切っていない状態。だから、日本のマンガとどう違うのかは当方にはよくわからない。

今回、レンタルしたブルーレイにはその原作者のインタビューが収録されていて、そもそものアイデアの核は「米国の南極基地には連邦保安官が常駐しているらしい」という情報だそうだ。昭和基地に警察庁の人は常駐しているのだろうか。

閑話休題。本作でまず困ったのは、舞台が南極だけあって登場人物たちが一様に同じような防寒服を着ているから、誰が誰だかよくわからないこと。クライマックスの氷上での三つ巴格闘シーンなんか、まったくわけがわからなかった。

あと、背景として、大型の嵐が近づいているから、早々に基地を退去しなければならないというタイムリミットサスペンス的な味付けもある。ところが、その背景が説明不足なのでまったくサスペンスになってない。101分という短尺は、そんな枝葉を切り落とした末の時間なのだろうが、結果として緊張感を削いでしまっているところが惜しい。

とはいいながらも当方が愉しめたのは、南極大陸という閉ざされた世界での連続殺人と、その舞台にはミスマッチな女性の連邦保安官の活躍というシチュエーションが新奇だったから。そして、ピッケルを振り回して襲ってくる犯人の姿はほとんどホラータッチ。誤解を承知で言うと、全体の雰囲気はレニー・ハーリンの『 マインドハンター 』と似たような印象で、全編を貫くB級テイストが当方の好みに合致したからなのだった。

それにしても、ケイト・ベッキンセールの美人っぷりといったらない。なんでこの作品に出たんだろう?


ホワイトアウト [Blu-ray]

ホワイトアウト [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • メディア: Blu-ray

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高田郁:『想い雲―みをつくし料理帖』(角川春樹事務所) [book]

想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)

想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)

  • 作者: 高田 郁
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2010/03
  • メディア: 文庫

内容(「BOOK」データベースより)
土用の入りが近づき、澪は暑気払いに出す料理の献立に頭を悩ませていた。そんなある日、戯作者・清右衛門が版元の坂村堂を連れ立って「つる家」を訪れる。澪の料理に感心した食道楽の坂村堂は、自らが雇い入れている上方料理人に是非この味を覚えさせたいと請う。翌日、さっそく現れた坂村堂の料理人はなんと、行方知れずとなっている、天満一兆庵の若旦那・佐兵衛と共に働いていた富三だったのだ。澪と芳は佐兵衛の行方を富三に聞くが、彼の口から語られたのは耳を疑うような話だった―。書き下ろしで贈る、大好評「みをつくし料理帖」シリーズ、待望の第三弾。


第三弾は、シリーズを通じての謎の一端が少しずつ解明されてくるという位置付けにある。そろそろ、物語が閉じ始めるのかな、という予感がする。それはそれでさびしいものだが、あまりにも長く続いていってしまうよりはいいのかも、と思う。

澪を取り巻く登場人物たちも相変わらずで、安心して読めるシリーズといえる。本書では、タイトルにもなっている「想い雲」がその幻想的な雰囲気が本シリーズでは異色ゆえに最も印象に残った。

この第三巻まで、どのエピソードも破綻のない安定した内容となっている。安心して物語を読み進められるということの凄みを感じるのだ。このあたりが無闇矢鱈に刺激的なある種の小説とはちがところ。まだ読んでいない人は、第一巻目からどうぞ。


◎関連エントリ
 ・高田郁:『八朔の雪―みをつくし料理帖 』(角川春樹事務所)
 ・高田郁:『花散らしの雨-みをつくし料理帖』(角川春樹事務所)


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『グリーン・ゾーン』 [movie]

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原題: Green Zone
監督: ポール・グリーングラス
製作: ティム・ビーバン、エリック・フェルナー、ロイド・レビン、ポール・グリーングラス
製作総指揮: デブラ・ヘイワード、ライザ・チェイシン
原作: ラジーフ・チャンドラセカラン
脚本: ブライアン・ヘルゲランド
出演: マット・デイモン、グレッグ・キニア、ブレンダン・グリーソン、エイミー・ライアン、ハリド・アブダラ、ジェイソン・アイザックス
製作国: 2010年アメリカ映画
上映時間: 114分
配給: 東宝東和

■■■
期待に胸をふくらませ劇場に赴く。というのも、あの『 ボーン・スプレマシー 』、『 ボーン・アルティメイタム 』のポール・グリーングラス監督&マット・デイモンのコンビの作品だから。


あらすじ
イラク戦争開戦から4週間後。ロイ・ミラーと彼の部隊は、砂漠地帯に隠された大量破壊兵器の行方を追う極秘任務で、イラクの首都バグダードを駆けずり回っていた。混乱のさなか、大量破壊兵器が隠されているとみられる倉庫に踏み込むが空振りに終わる。国防総省の動きに不信感を覚えた彼は、同じ疑念を抱いていたCIA調査官ブラウンと共闘することに。部隊を離れ単独で調査を開始し、執拗な妨害工作に苦しみながらも謎の核心に迫っていく。


グリーン・ゾーンとは、米軍を中心としたイラクの政府体制を再建しようとする連合暫定施政当局があったバグダード市内10km²にわたるエリアのこと。イラク暫定政権下の正式名称は「インターナショナル・ゾーン」ではあるものの、「グリーン・ゾーン」の呼び名が一般的、だそうである(ウィキペディアより)。

さて、開映直後に配給が東宝東和であることがわかり少し動揺する。どうも、同社の配給する作品との相性が悪い場合が多い気がするからだ。結論から申し述べると、手に汗握るエンタテインメント作品を期待すると肩透しとなるような作品だ。

そもそも本作はアクション映画ではない。時事社会派映画にアクションの味付けをしている、とでもいったらいいか。メッセージは直截的で、「合衆国政府のやっていることのなかには、信じられない部分が一部はあるから、われわれはそれを注視し、場合によっては阻止しますよ」というものだ。

上記のようなメッセージはボーン三部作ではCIAの陰謀というフィクショナルなものに置き換えられていたんだが、本作ではイラク戦争という現実に起こった戦争下での物語になっている。だから、イラク戦争の背景を少ししか知らない当方は置いてけぼりをくらってしまった。現代史の勉強不足だといわれてしまえばそれまでだけど。

それから、マット・デイモン演ずるミラーのキャラクタが、無謀というか直線的というか、あのジェイソン・ボーンの精緻振りを期待していたので物足りないという、これは当方のわがままなんだが。それにしても、ああも簡単に部隊を離れCIAと共闘するという状況はありえるんだろうか。説明も不足しているように思ったぞ。

(以下若干ネタバレ反転)最後の最後で、現地の民間人にああいううことされるというのも、軍人としては間抜けなように思われるがどうだろうか。

ということで、少しばかり残念な鑑賞となってしまった。救いは、国防総省の酷薄な官僚役のグレッグ・キニアの演技。いや、エンドロールで表示されるまで、グレッグ・キニアと似ているなあ、というくらいの別人振りを発揮する演技はさすがだと思わせてくれたのだった。


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我孫子武丸:『弥勒の掌』(文藝春秋) [book]

弥勒の掌 (文春文庫)

弥勒の掌 (文春文庫)

  • 作者: 我孫子 武丸
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/03/07
  • メディア: 文庫

内容(「BOOK」データベースより)
愛する妻を殺され、汚職の疑いをかけられたベテラン刑事・蛯原。妻が失踪して途方に暮れる高校教師・辻。事件の渦中に巻き込まれた二人は、やがてある宗教団体の関与を疑い、ともに捜査を開始するのだが…。新本格の雄が、綿密な警察取材を踏まえて挑む本格捜査小説。驚天動地の結末があなたを待ち受けます。


量的に軽めのミステリを読みたいと思ったので本書を手に取る。いまどきのミステリとしては分厚くないので、気負わずにパラパラと読み始めると、梗概にあるように教師と刑事の物語が交互に語られていく。

刑事の蛯原の人物造形が一般的な悪徳刑事らしく描かれ、一般的すぎるという意見もあろうが当方には個性的なキャラクタと読めた。しかし、全体的に登場人物に感情移入させない突き放した雰囲気という印象で、そこはあまり好きになれない。だから、『 殺戮にいたる病 』は読了できなかったのか。

梗概や帯にはっきりと記されているので敢えて申し述べておくと、本書は叙述トリックをメインにしたもの。だから、ある程度は用心して読み進めたのだが、まあ、そこそこ騙されてしまった。微妙な一点を軸にくるりとひっくり返された不思議な感じ。ただ、やはりこれだけの壮大な偶然はないよなあ。そこをどう思うかで評価は異なるのでは。良い意味での暇つぶしにはもってこいの作品。


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佐藤亜紀:『陽気な黙示録』(筑摩書房) [book]

陽気な黙示録―大蟻食の生活と意見‐これまでの意見編 (ちくま文庫)

陽気な黙示録―大蟻食の生活と意見‐これまでの意見編 (ちくま文庫)

  • 作者: 佐藤 亜紀
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/01/06
  • メディア: 文庫

著者の小説作品はすべて所有しているが、読了したのは『 戦争の法 』だけだなあ。そういえば著者の配偶者の作品もすべて所有している。読了したのは『 沢蟹まけると意志の力 』と『 異国伝 』だけだが…。ちなみにお二人の卒業された大学は当方も卒業したという不思議なご縁があるのだった。


内容(「BOOK」データベースより)
「賢くあることで大損するくらいなら、我々は愚かなままでいるべきなのだ」(『我々は愚民である』)、「アメリカの大統領選、あれくらい全世界に迷惑を及ぼすものはない」(『アメリカに帝政を!』)…戦争、9・11、メディア、論客、文学から現代美術、美食、近所の犬についてまで、辛口批評で知られる著者が本音で語り尽したエッセイ集。文句のある奴は前へ出ろ! 単行本未収録作多数を加えた増補版。


小説作品の読了が少ないことを反省し、取り急ぎエッセイ集である本書を手に取る。複数の出版社から刊行されていたエッセイ集の合本といったところ。全体を通読すると、ワンセンテンスが比較的に長い文章が多いのだが、ダラダラとしておらず流麗とさえ思えるのが著者ならではの技巧なのだろう。

さて、著者の読者なら、自身を大蟻食と自称しているのはご存知の通りだが、当方の印象ではむしろ針鼠といったもので、なぜここまで武装しなければいけないのかと思うほどの辛口評言が凄まじい。そのあたりがかんに障る人も多いに違いない。

とはいえ、言っていることは真っ当なものに感じられ、たとえば本書の末尾の「我々は愚民である」という文章は、まさにそのとおりと頷かざるをえない。

読もうかどうか迷われている方は、まずは著者のウェブサイトで、自分の趣味に合致しているか否かを確認してから読まれるが吉。当方はおもしろくて夜半までかけて通読してしまった。そして、小説については本書のようなエッセイとはまた異なるテイストゆえに、基本的には海外文学を読むようなスタンスで取り組まれるのが良いかもしれない、と半可通ファンとしては助言しておこう。


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松田久一:『「嫌消費」世代の研究』(東洋経済新報社) [book]

「嫌消費」世代の研究――経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち

「嫌消費」世代の研究――経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち

  • 作者: 松田 久一
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2009/11/13
  • メディア: 単行本

内容紹介
「クルマ買うなんてバカじゃないの?」

若者の消費が変化している。若者はなぜ、物を買わなくなっているのか。
そこには巷間ささやかれている「低収入」「格差」「非正規雇用の増加」以上に深刻な、
彼ら独特の心理=「劣等感」が強く影響している。

本書では「収入が十分あっても消費しない」傾向を「嫌消費」と名付け、
大規模な統計調査と聞き取り調査をもとに、「嫌消費」を担う世代=20代後半の
「買わない心理」の原因と深層に鋭く迫る。ビジネスパーソン必読の一冊。


著者は「嫌消費」という言葉をつくった人。何かのインタビュー記事を目に留めたので本書を購入した。巷で言われる「若者の○○離れ」という現象の理由の一端がわかるかもしれない、と思ったから。『 欲しがらない若者たち 』を読んだからってこともあるし。

嫌消費世代が20代後半のバブル後世代に多いことを調査によって裏付け、その理由を「劣等感」との関連性で論じるのだが、うーん、そのあたりは当方にはあまりピンとこなかった。

クルマを買うことは、その世代にとっては仲間内の空気を読めていないとバカにされることだから購入しない、というのも「ほんまかいな」という感じ。単に経済合理性を真っ当に追求するとそうなるのではないか、と思う。

一方で、この世代がインフレを体験したことがないということも原因の一つではないか、という指摘は肯けるものがある。商品は、待てば値段が下がるもの、という時代を生きてきたいるという意味ですね。あと当方は、将来的に収入が大幅に上がらないであろうと彼らが感じているのは、物価が上がらないから給与の上がり幅もそう大きくはないだろうと直観しているのではないかとも思える。

ところで、本書ではほとんど一章を使い「世代論」について解説をしている。恥ずかしいことに、当方は「世代論」が歴史学の観点の一つであることを知らなかった。世代論は嫌いだ、と記述したりしているが、それが西洋の歴史観に端を発するものとはね。知ったかぶりはするものじゃないといことだ。

閑話休題。話がふらついているので強引にまとめると、「嫌消費」がバブル後世代に特徴的な傾向であることを、世代論的史観から統計的手法を以て特定するという段はおもしろい。けれど、なぜそのような傾向がこの世代に多いのかという仮説については腹落ち感に欠ける、といったところか。読んで少しばかりモヤモヤ感が残ってしまった。


◎関連エントリ
 ・山岡拓:『欲しがらない若者たち』(日本経済新聞出版社)


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藤井保紀:『IFRSの衝撃』(日経BP社) [book]

IFRSの衝撃 国際会計基準が企業を変える

IFRSの衝撃 国際会計基準が企業を変える

  • 作者: 藤井 保紀
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2009/12/10
  • メディア: 単行本

アルファベットの略称の読み方には予断を許さないものがある。特にPC絡みでは。最近はあまり規格として見かけなくなったが、SCSIをスカジーと読むなんてのは普通は無理というものだ。そういえば、前にパラレルATAを「パラレルアタ」と発音したら、「おまえはケンシロウか」といわれたことがあったな…。


内容紹介
外資系企業の監査役としてIFRSの実務に精通する著者が書き下ろしたIFRSの本格的入門書。 類書には導入のためのマニュアル書の類が多いが、本書はIFRSが日本基準とどこが違うのか、日本企業にどんな影響を与えるのかを、貸借対照項目と損益計算書項目の変更点を中心に詳しく解説した。 冒頭の「はじめに」の「IFRSの衝撃 9つのポイント」では、「売上が激減する?」「利益が変わる」、「一括償却迫られる?年金債務」「リースが使えなくなる」など9つのポイントを要約している。


「国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)とは、国際会計基準審議会(IASB)およびIASBの前身である国際会計基準委員会(IASC)により設定された会計基準(IAS およびIFRS)および国際財務報告解釈指針委員会(IFRIC)およびIFRICの前身である解釈指針委員会(SIC)により発表された解釈指針 (SICsおよびIFRICs)の総称」とのことで、よーするに会計基準を世界的に統一したルール基準にしましょう、という理解でよいと思う。

ちなみに、当方は律儀にIFRSを「アイエフアールエス」と発音していたが、本書のタイトルでは「アイファース」と読んでいる。まあ、発音しやすいと言えばそうだが、それでいいのかは疑問が残る…。

閑話休題。本書の内容については、実は上記の内容紹介が非常にうまくまとめているので当方が付け加えることはほとんどない。とにかく、説明の仕方が非常にわかりやすいのが素晴らしい。当方は類書を手に取っていないが、IFRSの全体像を捉えるには本書以上にわかりやすいものはないのではないか。

一昔前の「会計ビッグバン」のときもそうだったが、今回は売上高や利益の記述方式が劇的に変わることやのれん代の一括償却ができなくなることなど、日本企業へのインパクトが相当なものであるとわかる。

そして、退職給付債務の一括償却を迫られることなどは、企業年金制度を持つ企業に勤務する従業員の老後の生活にも多大な影響を及ぼすだろう。たとえば、日本航空の会社更生法申請も、このIFRSの導入を睨んでのことだったのかもしれない。

IFRSなんか関係ない、ということは言ってられない。社会・経済全体へのインパクトは、実は生活者全体へも波及するものと推測されるから、少なくとも知識として持っていたほうがいいと思う。その観点からも、本書は有益なものだと思うし是非お奨めしたい一冊である。


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今野敏:『天網 TOKAGE2 特殊遊撃捜査隊』(朝日新聞出版) [book]

天網 TOKAGE2 特殊遊撃捜査隊

天網 TOKAGE2 特殊遊撃捜査隊

  • 作者: 今野 敏
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2010/02/05
  • メディア: 単行本

いや、驚いた。前作の TOKAGE 特殊遊撃捜査隊 』は2008年の3月に読んでいるんだが、内容をまったく覚えていない。辛うじて登場人物の新聞記者とかは読み始めて思い出したぐらい。記憶力ってほんとに減退するんだね。


内容(「BOOK」データベースより)
3件の同時多発バスジャック事件が発生、警視庁の隠密捜査専門のバイク部隊「トカゲ」に出動命令が下る。捜査一課の上野数馬は初めて「トカゲ」のチーフを任される。犯行に並行するかのように、ネット上で犯人しか知りえない情報が流通していた。犯人グループの目的は―? 本格警察小説『TOKAGE』シリーズ第2弾。


そんなわけで、シリーズ第二弾は前代未聞のバスジャック事件を追う特殊捜査班メンバーの活躍を描く。同じ警察小説ながら、『 隠蔽捜査 』とは異なり、捜査班メンバーのそれぞれの心の動きやそのチームプレーの描写を主眼とした物語だ。

だから、犯人たちの人物像なんかはすっ飛ばされていて、全体のバランスを欠いている印象は否めない。警視庁内部におけるSITの特殊な立ち位置とか、警察庁キャリアの介入、そしてSATの出動など、組織内の動きの描写のほうが多いし、そしてそれがおもしろい。

状況を愉しむ、とでもいうのかね。シチュエーションと、それに関わる人間たちの心理や行動におもしろさがある。だから、いわゆるミステリという範疇を期待すると物足りないと思う。当方は、様々な警察官たちの人物像が著者らしく描かれているので、愉しく読めたの一冊なのだった。


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垣根涼介:『張り込み姫』(新潮社) [book]

張り込み姫 君たちに明日はない 3

張り込み姫 君たちに明日はない 3

  • 作者: 垣根 涼介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/01/15
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
今回のターゲットは、英会話学校、旅行会社、自動車業界、そして出版社―。仕事の意味を、働く理由を、迷うあなたに問いかける、リストラ請負人・村上真介、次はあなたの会社へ。


おそらく著者の真骨頂は『 ワイルド・ソウル 』あたりなんだろうが未読だ(持ってるけど)。本シリーズは第一作目の『 君たちに明日はない 』を文庫版で購入した結果、第二作以降はリアルタイムに読んでいることになる。第二作が『 借金取りの王子 』で本作は『張り込み姫』だから、なんとなく現代のお伽噺を志向しているのかなと推測したりしている。

短編が4作収録されている本書だが、いずれもほどよくおもしろく読ませてくれるのはさすが。当初は、リストラ請負人という少し変わった職業と主人公の魅力で引っ張っていたシリーズだったが、ここにきて、働くことについての省察や、主人公と面接する対象人物のキャラクタで読ませるようになってきた。

リストラ請負人と対象者面接シーンは、対象者のその職業に対する取組み姿勢を浮かび上がらせることができる。そのシーンを通じて、著者は「あなたにとって働くことは何を意味しているのか」と読者に問うているように思える。

第3話の「みんなの力」が当方は好きかな。あまりにうまく行きすぎじゃないかという意見はあろうが、やはりこの手の人情噺にはホロリと来てしまう。おそらくは作者自身を投影しているであろう第2話の「やどかりの人生」も、対象者の特異なキャラクタで読ませる。因みに、著者は大手旅行代理店に勤務していたことがあるようだ。

読み応えという面ではいささか物足りないところはあるが、逆にこの手のシチュエーションや題材からくる重苦しさを感じさせず、ササッと読めるところがいいと思う。お奨めしておこう。


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石持浅海:『攪乱者』(実業之日本社) [book]

攪乱者 (ジョイ・ノベルス)

攪乱者 (ジョイ・ノベルス)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2010/04/15
  • メディア: 新書

連作短編集と連作長編という用語は、よく聞く言葉だし弊ブログでも何気なく使っているのだが、どのように違うのだろうか。定量的な面として、googleで二つの言葉を検索したら、前者は330千ヒット、後者は137千ヒットということで、もしかしたら連作長編という言葉は連作短編集の誤用かもと思わせる。

当方の感覚的な使い方を申し述べておくと、連作短編集は「登場人物や時代が異なっても、世界観を同じくし、独立した短編として読める作品で構成されているもの」くらいの感覚で用いている。

一方、連作長編は「独立した短編として読める作品で構成されていているが、全体としてはひとつの物語になっていて通作で結末が存在するもの」という感じだ。具体的には、前者は伊坂幸太郎の『 終末のフール 』、後者が『 密室殺人ゲーム王手飛車取り 』というイメージだ。


内容(「BOOK」データベースより)
コードネーム『久米』『輪島』『宮古』のテロリスト三人。彼らは一般人の仮面をかぶりながら、政府転覆をめざすテロ組織の一員である。組織は、暴力や流血によらない方法で現政府への不信感を国民に抱かせようとしていた。彼らに下された任務は、組織が用意したレモン三個をスーパーのレモン売り場に置いてくるなど、一見奇妙なものであった。任務の真の目的とは何か。優秀な三人の遂行ぶりが引き起こす思わぬ結果とは。テロ組織の正体は。そして彼らの運命を翻弄していく第四の人物の正体は―。


ミステリにおける「日常の謎の解明」というテーマを解き放ったのは、北村薫の『 空飛ぶ馬 』からだと当方は考えている。いや、それ以前にも海外にはアシモフの『 黒後家蜘蛛の会 』のシリーズがあったか。でも、日本におけるそれとはちょっと肌合いが違うという印象を感じる。

本書は、政府転覆を目論むテロ組織の細胞の一つに与えられるミッションの奇抜さが、その「日常的な謎」を想起させるところに新味がある。そもそも、無血・非暴力のテロ組織という存在自体に不条理感があるし、その脱力的な指令に真面目に取り組むメンバーにもオフビートな雰囲気がある。

与えられるミッション自体もインポッシブルなものではなく、「いかにして」という興味よりむしろ「なぜ」ということに焦点が定められている。だから、この調子で続く連作短編集という構成でいくのかと思えばさにあらず。

TURNⅠ~Ⅲのなかに三篇ずつが配置されているが、中盤以降はミッションより、登場人物たちが徐々にそのバランスを崩していく様子をサスペンスフルに描くことが中心になる。だから、冒頭に申し上げたような定義で言えば連作長編ということになるだろう。

第一話の「檸檬」は2004年に雑誌掲載されたもので、最終話が2010年。おそらく「檸檬」はシリーズ化を意識しないで書かれたものなんだろうが、纏まると結果として一冊の長編として構成されるのが不思議な感じだ。終盤では石持作品らしい酷薄ぶりも横溢しておりファンにはお奨め。


◎関連エントリ
 ・石持浅海:『賢者の贈り物』(PHP研究所)
 ・石持浅海:『扉は閉ざされたまま』(祥伝社)
 ・石持浅海:『水の迷宮』(光文社)
 ・石持浅海:『R のつく月には気をつけよう』(祥伝社)
 ・石持浅海:『君の望む死に方』(祥伝社)
 ・石持浅海:『耳をふさいで夜を走る』(徳間書店)
 ・石持浅海:『ガーディアン』(光文社)
 ・石持浅海:『温かな手』(東京創元社)
 ・石持浅海:『まっすぐ進め』(講談社)
 ・石持浅海:『BG、あるいは死せるカイニス』(東京創元社)
 ・石持浅海:『君がいなくても平気』(光文社)
 ・石持浅海:『月の扉』(光文社)
 ・石持浅海:『心臓と左手』(光文社)
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鏡明:『二十世紀から出てきたところだけれども、なんだか似たような気分』(本の雑誌社) [book]

二十世紀から出てきたところだけれども、なんだか似たような気分

二十世紀から出てきたところだけれども、なんだか似たような気分

  • 作者: 鏡 明
  • 出版社/メーカー: 本の雑誌社
  • 発売日: 2010/03/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


高校生から大学生にかけて、読むSFを選ぶときの導師は「SFマガジン」誌上における水鏡子と著者のレビューだった。特に著者の場合は、その正真正銘の悪趣味ぶりがクールに思えたわけだ。そのレビューでジーン・ウルフの<新しい太陽の書>シリーズを知ったりしたし、東京創元社で著者が編纂した<ペーパーバック・ヒーローズ>などは愉しく読んだ覚えがある。


内容説明
この30年、5000冊以上の本を読み、2000枚近いCDを聴き、1匹の猫をなくした−。軸のぶれないクリアな視点で世界を見つめる伝説のコラム。『本の雑誌』掲載の「連続的SF話」から厳選して、加筆訂正し書籍化。


『本の雑誌』誌上のコラムも時折は読んでいたものの、定期購読していたわけではないので大学の図書館でポチポチ読んでいたきりだった。それにしても、思い切った出版だ。どう考えたって購入者層は限られていると思う。当方は前述のようにSFの人だと知っているし、作家としても不確定世界の探偵物語 』などを愉しく読んだクチだからいいが、一般的な知名度には低いと思うからだ。

そもそも著者の名前は出版界よりもむしろ広告の世界で知られているんだろうと思う。何しろ電通の執行役員まで務めた人なんだから。本書のなかでもその忙しそうに世界中を飛び回る様子がうかがえる。当方が不思議に思うのは、そんな社会的に成功している人物が、SFやミステリ、そしてロックに関するコラムを書き続けていることだったりするのだ。

そしてもっと不思議なのは、その多忙の合間を縫って、どうやって本を読んだり音楽を聴いたりゲームをする時間をつくっているのかということ。本書を読む限りでは、読書のスピードが異様に速いということだけしか記述されていないが、どう考えたって常人離れしていると思うぞ。

***

本書は、1979年から2001年まで22年間に亘る文章がまとめられている。まず、それがすごい。ほとんど、著者の半生と言っていいだろう。これだけの長期間に連載されたコラムが一冊にまとまった本は珍しいのではないか。

当方はロックにはくわしくないので、そこに関する文章は少しばかり読み飛ばし気味にしてしまったが、ことSFに関する文章については、その時代の息づかいを懐かしく思いながら読み進めた。初期の文章におけるジェームズ・P・ホーガンの『 星を継ぐもの 』は、著者が解説を書いていたりして初めての紹介者として認識されていたりするのだし。

他にも『 ニューロマンサー 』や『 戦士志願 』など当方もリアルタイムに読んでいて、著者とは年齢は離れているものの、まるで古くからの知人と昔話をしているような気にさせてくれた。だから、そんな同時代性を持っていない人が、どのように本書を捉えるのかというのは興味がある。

まあ、実際には誰かに本書を奨めたりしない。けれども、間違いなくどこかにその足跡を残しておかねばならない仕事であると思う。とにかく本書を出版した本の雑誌社には最大限の敬意を表すことにしたい。


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内田樹:『日本辺境論』(新潮社) [book]

日本辺境論 (新潮新書)

日本辺境論 (新潮新書)

  • 作者: 内田 樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/11
  • メディア: 新書

内容(「BOOK」データベースより)
日本人とは辺境人である―「日本人とは何ものか」という大きな問いに、著者は正面から答える。常にどこかに「世界の中心」を必要とする辺境の民、それが日本人なのだ、と。日露戦争から太平洋戦争までは、辺境人が自らの特性を忘れた特異な時期だった。丸山眞男、澤庵、武士道から水戸黄門、養老孟司、マンガまで、多様なテーマを自在に扱いつつ日本を論じる。読み出したら止らない、日本論の金字塔、ここに誕生。


刊行後ほぼ半年近く経ってしまったので、いまさら感はあるが、ようやく入手し読了する。思ったのは、いつものもてなしのいい著者の作品とは違い、相当に難解であること。いや、冒頭のもてなしの良さにいつもの調子で読んでいった当方は、第二~三章の難解さにくじけそうになったよ。

そういう意味では、タイトルの「日本辺境論」自体は第一章で語り終えられており、第二~三章は日本人に関する哲学的論考ともいうべきものだと感じた。さらに第四章では、日本人と日本語論が語られていて、本書全体としてはいろいろな部品をくっつけてできあがった感がある。

もちろんおもしろくないわけはないので、数時間で読み切ってしまった。思ったのは、新書というプラットフォームで語り終えてしまうには壮大なテーマであったし、本書だけで完結させて欲しくないということ。もっと難解でかまわないから、もっと分厚い著者の日本人論を読んでみたい。


◎関連エントリ
 ・鷲田清一,内田樹:『大人のいない国』(プレジデント社)
 ・内田樹:『昭和のエートス』(バジリコ)
 ・橋本治,内田樹:『橋本治と内田樹』(筑摩書房)
 ・内田樹:『邪悪なものの鎮め方』(バジリコ)


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また弘前に行ってきた [travel]

先週はまだ桜が開花していなかったので、今週こそということで弘前に行ってきた。今回は大館からクルマで移動。

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■道の駅いかりがせきに立ち寄る
■マルメロ・ソフトは逸品。ぜひおすすめしたい
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■一方、まるめろとらやきは今一歩■臨時無料駐車場から弘前城への移動途上の不思議な交通標語

 


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弘前城では満開の一歩手前といった風情。

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また弘前に来ている [travel]

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ちゃんと咲いています!
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