D・M・ディヴァイン:『五番目のコード』(東京創元社) [book]
内容(「BOOK」データベースより)
スコットランドの地方都市で、帰宅途中の女性教師が何者かに襲われ、殺されかけた。この件を発端に、街では連続して殺人が起こる。現場に残された棺のカードの意味とは? 新聞記者ビールドは、警察から事件への関与を疑われながらも犯人を追う。街を震撼させる謎の絞殺魔の正体と恐るべき真意とは―読者を驚きの真相へと導く、英国本格の巧者ディヴァインの屈指の傑作が甦る。
いつものことながら、なぜ本書を手に取ったかはよく覚えていない。山になっている積読本の中から引っこ抜き、寝る前の一時間程度の読書の共としたのだった。英国(スコットランドだけど)の小説は一気読みではなくのんびりと読むのにあっていると思う。
なんの予備知識もなく読み始めたものだから、主人公がタイプライターを叩いているシーンに「ずいぶんと古いデバイスを使っているものだな」と思い確認すると、なんと原著は1967年の出版。当方の生まれる一年前じゃないかと驚く。
ところがね、読み進めると、時代性に起因する古めかしさがまったく感じられなかったのが好もしいところ。当方が古めかしくなりつつあることを割り引いてもそんなことを思わせなかったのは、端正な翻訳が理由の一つ。
そして主たる要因は、登場人物たちが時代を越えて共感できる普遍性を以て描かれていることだ。本書末尾の解説にもあるように、「ネオ・ハードボイルド」のような主人公の描かれ方であるとか、最近の海外テレビドラマと共通する雰囲気であるとか、そのあたりのおもしろさは充分に感じられた。
一方で、ミステリとしてのおもしろさだが、どうだろう。ミステリにケレン味を求める当方としては少しもの足りなかったとは言っておきたい。とはいえ、いわゆるシリアルキラーものがこの当時に書かれていたことの凄みはある。それが帯の惹句に書かれている「英国本格」とはリンクするかは疑問だが。
褒めているのか貶しているのかよくわからない文章になってしまったが、少なくともあと数冊は著者の作品を読んでみようと思わせる愉しみは感じられる一冊。