林譲治:『狼は猫と狐に遊ばれる』(幻冬舎コミックス) [book]
内容(「BOOK」データベースより)
人類初の核融合宇宙船アンドロメダが突如消息を絶ってから1年―。密輸取引の現場を取り押さえるため地球へやってきたICPOの鳴海猛だが、謎のテロリストによる襲撃に邪魔をされ、犯人を取り逃がしてしまう。密輸されていたブツがアンドロメダの一部であることを知った鳴海は、犯人の妹を名乗る謎の美女・凶狐と共に事件を追いかけるが…。虚実絡み合う中、鳴海は事件の背後にある謎にたどり着けるのか!?―。
判型や装幀、そして出版社からもわかるように、基本的にはライトな小説を指向して書かれたものと推測される。大抵の場合、その手の小説はキャラクタが立っているのがウリなんだろうが、本書の場合は比較的おとなしめ。梗概にある「謎の美女・凶狐」の性格付けも、もう一歩踏み込めば、という感じ。
そもそも、主人公(であると思われる)ICPOの鳴海という人物が、らしからぬ間抜けさを全面に出していて、かっこよさとはまったく無縁。登場人物の魅力で読ませる小説ではないと、はっきり言える。
本書は2110年のそれなりに遠い未来を舞台にしているから、最新のテクノロジの描写もあるが、100年後にしてはちょっとショボいんじゃない、と思えてしまう。ストーリーはフラフラしているし、中盤まではいいところなしか、と読み進んでいた。
終盤では挽回し、きちんとSF小説しているところに安堵する。宇宙船の運用方法など、そこはかとなく谷甲州の影響が感じられ、オールドファンは郷愁を覚えるかもしれない。
地球のセキュリティシステムから見えない存在という設定も、SFファンのツボといえるだろう。だから、ストーリーとかキャラクタとか今風の小説を期待したら金返せになってしまうのでお気をつけください。「航空宇宙軍史」が好きな人は読んでおいていいと思ったのだった。