香納諒一:『虚国』(小学館) [book]
著者の新刊は一昨年の8月の『 毒のある街 K・S・P〈2〉 』以来だ。2008年が新刊ラッシュだったので、昨年は充電期間ということだったのかもしれない。
ちなみに、本書の探偵役を務める主人公は、『 無限遠 』が初登場らしく、シリーズものは一作目から、という当方の原則がまげられることとなった。しょうがないよ、久しぶりの新作なんだから。
内容(「BOOK」データベースより)
それは「ちっぽけな田舎町の、ちっぽけな事件」のはずだった…。この国の様々な場所で、長い間ずっと繰り返されてきたことが、この町でも起ころうとしている。廃墟の撮影に訪れた元探偵のカメラマン、最愛の女性を殺された地元紙記者。人間の業の渦に巻き込まれ、失意の内にも男たちは光を求めようとする。行きつく先は絶望か、希望か。
帯には「公共事業は悪なのか」なる惹句。舞台は空港建設計画が持ち上がった地方都市だから、広義の社会派ミステリなのかと思ったら、まったく違った意味での社会派ミステリだったことに驚く。
どんなテーマなのかを詳述すると、実はネタバレになってしまうという構造を持っているから、内容を紹介するのは避けておこう。それくらい、本書のテーマはストーリーと大きくかかわっていると感じられたから。
とにかく中盤までは、"なぜこんなテレビの2時間ドラマみたいなプロットにつきあわなくちゃいけないのか"と、正直なところ思った。大丈夫か、著者! とまで思った。
ところが終盤で、タイトルとテーマ、そしてストーリーがが見事にシンクロナイズする。その手際が素晴らしいと嘆息してしまった。わかってる人はきちんと読み取れるよね、というように、テーマをあからさまに提示しないところがなんとなく著者らしいと感じた。
派手さや華、そしてケレンはないのかもしれないが、著者のファン以外の方も試しに手にとってはいかがだろう。試しにしては1,800円(税抜き)は少しばかりお高いかもしれないが。