SSブログ

堤未果:『ルポ 貧困大国アメリカ II』(岩波書店) [book]

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

  • 作者: 堤 未果
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/01/21
  • メディア: 新書

おかげさまで、衣食住にはさほど不自由しない生活が送れている。買いたい本は好きなだけ買っているし、弊blogを定期的にご覧の方ならおわかりのように、無駄遣いもいっぱいしている。それでも、こんな状況が長続きするはずがないというオブセッションが常にある。

それは当方の働く業界の将来性であったり、もっと大きなことを言えば、これから日本の経済成長はさほど望めないという予測(予感?) にあったりする。いつか、貧困とは言わぬまでも、欲望を充足させるに足るだけの実入りに乏しくなるかもしれない。


内容(「BOOK」データベースより)
経済危機後のアメリカでは、社会の貧困化が加速している。職がみつからず、学資ローンに追い立てられる若者たち。老後の生活設計が崩れた高齢者たち。教育や年金、医療、そして刑務所までもが商品化され、巨大マーケットに飲みこまれている。オバマ登場で状況は変わったのか。人々の肉声を通して、アメリカの今を活写するルポの第二弾。

結論から申し述べると、「日本の近未来を暗示する衝撃の第2弾」という帯の惹句が大袈裟ではない、強いインパクトを持ったルポルタージュになっている。また、前作より文章も読みやすく、作中のインタビューなども迫真性があり、そのあたりに著者のルポライターとしての深化を感じる。

さて、プロローグとエピローグに全4章が挟まれた格好の本書だが、第2,3章はそれぞれ社会保障や医療問題について言及されている。内容についてはマイケル・ムーアの『 シッコ 』で見聞していた話題ということもあり、当方にとっては意外性はなかった。

驚くのは、第1章と第4章。第1章では主に公教育としての大学に触れている。本書を読む限りでは、かの地の大学は日本の国公立のそれよりお金がかかるようだ。その学費について、学生は学資ローンを借入れて手当てするのだが、その凄まじさたるや。なにしろ、将来それを返済できずに破産したとしても、免責されない債務としてのしかかってくるのだ。

なぜそんなことになるのか。詳しくは本書を読んでいただくとして、そもそも学費の高騰を招いたのは、大学に市場原理を導入したことで人件費率が高まったことなどが要因の一つのようだ。そして、奨学金の縮小と民営の学資ローン融資会社と政府の癒着などにも言及されている。

そして、もっと驚いたのは第4章。かの国では刑務所が民営化されているのは仄聞していたが、その囚人たちが第三世界より安い賃金で民間の労働を委託されているという状況が記述されている。実際、その影響で、国内の労働者の雇用にまで影響が出ているらしい。

さらに、その民営刑務所を誘致することによって、地方自治体(米国で言う"州")に予算が付いたり雇用が確保されたりして潤うという図式や、その刑務所物件をREITとして金融派生商品にするというんだから、ほとんど悪夢の近未来としか言いようがない。

いずれの例も、政府と、その利益関係者の関連がないとはいえないものだ。「あとがき」で著者は以下のように言っている。

 
世界を飲みこもうとしているのは「キャピタリズム(資本主義)」よりむしろ「コーポラティズム(政府と企業の癒着主義)」の方だろう。
 

もちろん、このようなテーマで書かれている以上、一定のバイアスはあると思う。また、かの国と我が国では、歴史や文化的背景が異なるから、紹介したような極端な事例が現出するかは何ともいえない。

それでも潮流としては、世界で市場原理主義が拡大していくことには違いない。結局、個人として長期的なヴィジョンを持ち、備えていくしかないのではあるまいか、と、そんなことを思ってしまうのだった。

 


◎併せて鑑賞したい

 

シッコ [DVD]

シッコ [DVD]

  • 出版社/メーカー: ギャガ・コミュニケーションズ
  • メディア: DVD

◎関連エントリ
 ・堤未果:『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波書店)


トラックバック(0) 
共通テーマ:

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。