伊坂幸太郎:『SOSの猿』(中央公論新社) [book]
内容(「BOOK」データベースより)
ひきこもり青年の「悪魔祓い」を頼まれた男と、一瞬にして三〇〇億円の損失を出した株誤発注事故の原因を調査する男。そして、斉天大聖・孫悟空―救いの物語をつくるのは、彼ら。
梗概にあるように、悪魔祓いと株誤発注事故、そして孫悟空の三題噺がこのようなすばらしい物語になるのだから、まったくもって作家の頭の中身というのはどうなっているのだろうと不思議に思う。
著者は、そもそもデビュー作がファンタシィに近いものだったと思う。それが『 ラッシュライフ 』以降はその作品の多くがミステリにカテゴライズされてきた。そろそろ、その認識にこだわることはやめにしたほうがいいのかもしれない。それほど本書の内容は、いわゆるミステリとは思えないからだ。
当方にとっては、本書はファンタシィとしかいいようがない。ここ数作、ファンタシィとも寓話ともとれる作品が上梓されてきたが、本書はさらにその傾向が強まったといえるだろう。二人の男の物語が並行して語られるが、誤解を恐れずにいえば「悪魔祓い編」は村上春樹、「株誤発注編」は筒井康隆を思わせる内容や書きっぷりになっている。
寓意を孕んだ物語や透明感のある文章、そしてどことなく無国籍の感のある作風は、限りなく海外の文学に近づいているように思う。今後、著者は広義でのミステリ、そして狭義でのエンタテインメントから離れていくのかもしれないと予感させる。
とはいうものの、本書はそのミステリ的側面を期待しなければ、相当に愉しめるエンタテインメントには間違いない。いや、当方は実は著者の作品ではいちばん好きかもしれない。著者の作品を読んだことのない人には一冊目としてもお奨めだ。