SSブログ

スティーヴン・キング:『夜がはじまるとき』(文藝春秋) [book]

夜がはじまるとき (文春文庫)

夜がはじまるとき (文春文庫)

  • 作者: スティーヴン キング
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/01/08
  • メディア: ペーパーバック

原著では、先にご紹介した『 夕暮れをすぎて 』と併せて一冊の短編集を構成している。日本では分冊での発刊だ。別に一冊でもいいじゃないかとも思うが、何かしらの理由があってこういうことになっているのだろう。


内容(「BOOK」データベースより)
悲しみに暮れる彼女のもとに突如かかってきた電話の主は…愛する者への思いを静かに綴る「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」、ある医師を訪れた患者が語る鬼気迫る怪異譚「N」、猫を殺せと依頼された殺し屋を襲う恐怖の物語「魔性の猫」ほか全6篇を収録した最新短篇集。


実は当方は著者の良き読者ではない。『 ファイアスターター 』や『 デッド・ゾーン 』など、他に数冊か。そして今回、本書を読んで思ったのは、キングの著作の多くが「家族」をそのテーマにしているのではないかということ。

本作品集でも、 ほぼ全作品に家族という共同体が深く関わっている。家族を失うことへのおそれや、失ってしまった家族への哀惜、そして家族との愛憎。これらは現代社会における「恐怖」の大きな部分を占めているのでは、と当方は勝手に思ったのである。

そんな観点でみると、ラヴクラフトの衣鉢を継ぐ作品である「N」は、失われてしまった家族への哀しみが胸を打つという側面も併せ持っている。そして、ラストはとあるジャパニーズホラーを思わせる余韻を残す。本書では随一の読み応えのある作品だ。

その他の作品も、よくあるアイデアのものが多いとは思うが、キングの筆にかかるとある種の凄みが出てくるのが不思議。特に異彩を放つのは最後の「どんづまりの窮地」。食前食後にはお奨めできない。読む時間帯には気をつけたほうがいいだろう。

『夕暮れを過ぎて』と合計しても1,500円しないので、今時ではお得感のある短編集だ。独特のアクの強さはあるが、キングの多彩な小説技術を堪能するにはお奨めといえるだろう。


◎本書より


家族の存在理由は多々あれど、その最も基本的な役割は、「構成員の死に際して集まる」ことではあるまいか。

(69ページ)
 

◎関連エントリ
 ・スティーヴン・キング:『夕暮れをすぎて』(文藝春秋)


トラックバック(0) 
共通テーマ:

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。