SSブログ

石持浅海:『月の扉』(光文社) [book]

月の扉 (光文社文庫)

月の扉 (光文社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/04/12
  • メディア: 文庫

同じ著者の『 心臓と左手 』が文庫化されたので購入したところ、なんと本書の続編とのこと。順番に読むが吉と思い購入し読み始めたのだった。


内容(「BOOK」データベースより)
沖縄・那覇空港で、乗客240名を乗せた旅客機がハイジャックされた。犯行グループ3人の要求は、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」を空港まで「連れてくること」。ところが、機内のトイレで乗客の一人が死体となって発見され、事態は一変―。極限の閉鎖状況で、スリリングな犯人探しが始まる。各種ランキングで上位を占めた超話題作が、ついに文庫化。


梗概をお読みになればおわかりのように、呆れるほどにありえない設定がすごい。リアリティのかけらもないといっていい。こんなシチュエーションが現実に起こることは100%ないだろう。

ところが、そんなシチュエーションに持っていくまでのディテールの積み重ねにリアリティがある。例えばハイジャック犯一味が機内に武器を持ち込む方法や人質の択び方・捕縛の仕方とか。でも、ほとんど一般人といえる犯人一味がそんなノウハウを持っていたことについてはリアリティがあるとはいえないな...。

もうひとつユニークなのは探偵役の設定。偶然にハイジャック機内に居合わせた青年なのだが、名前はなく、座間味島のTシャツを着ていたことから"座間味くん"と犯人一味に呼称される。

近年の著者の作品の探偵役的主人公は、冷静沈着で感情を面に出さない超然としたキャラクタが多いが、本書での座間味くんは露骨に嫌な顔をしたり怒声をあげたりする。長編第二作目ということで特有の人物設定がまだ固まっていなかった時期だったのかもしれない。

そんな探偵役だが推理力は相当に高く、殺人が起きて以降の中盤では、著者らしいディスカッションがハイジャック犯一味との間で交わされていく。特に本作では、そのディスカッションを利用して危険を回避しようとする座間味くんの企みがスリリングだ。状況からの脱出と事件解決に向けてのディスカッションが不可分になっているところが出色。

と、ごちゃごちゃ書いてしまったが、実は当方にとっては相当に愉しめた作品だったということを告白しておこう。朝の電車から読み始め、昼休み・帰りの電車と読み継ぎ、そして夜半には読みきってしまったのだから。うーん、でも生真面目な人にはお奨めできないな。

◎関連エントリ
 ・石持浅海:『賢者の贈り物』(PHP研究所)
 ・石持浅海:『扉は閉ざされたまま』(祥伝社)
 ・石持浅海:『水の迷宮』(光文社)
 ・石持浅海:『Rのつく月には気をつけよう』(祥伝社)
 ・石持浅海:『君の望む死に方』(祥伝社)
 ・石持浅海:『耳をふさいで夜を走る』(徳間書店)
 ・石持浅海:『ガーディアン』(光文社)
 ・石持浅海:『温かな手』(東京創元社)
 ・石持浅海:『まっすぐ進め』(講談社)
 ・石持浅海:『BG、あるいは死せるカイニス』(東京創元社)
 ・石持浅海:『君がいなくても平気』(光文社)


トラックバック(0) 
共通テーマ:

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。