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詠坂雄二:『電氣人閒の虞』(光文社) [book]

電氣人閒の虞

電氣人閒の虞

  • 作者: 詠坂 雄二
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/09/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

都市伝説(urban legend)といえば、ジャン・ハロルド・ブルンヴァンの諸作がおもしろい。大学生のころに『 チョーキング・ドーベルマン 』を読んではまった。その後『 消えるヒッチハイカー 』を読んで、いわゆる「タクシーで消える女」のような話が米国にもあること、そしてその起源が馬車の時代まで遡ることを知り驚いたものだ。

民族や国を越えて似たような物語が語られるのは神話類型(貴種流離譚、異類婚姻譚など)が代表的だが、都市伝説が同様のものとは考えにくいという印象を持っている。神話類型が整然としたもので、世界に秩序を与えるという役割を担っているとしたら、都市伝説はカオスをもたらすもののような気がするからだ。

そして、そのカオスを生成するものは人間の感情のうちもっとも古いもののひとつである「恐怖」にほかならないと思うからである。


出版社サイトより

電気人間なんて、いない。
そう言って、彼女は死んだ。

語ると現れる。
人の思考を読む。
導体を流れ抜ける。
旧軍により作られる。
電気で綺麗に人を殺す。

「電気人間」は一部地域でのみ語られている、
人気のない都市伝説に過ぎない。
だが、周期的に人が死んでいた。
電気人間にかかわった者の多くが、
不審な形で。何者かによる連続殺人なのか? 
何のために?

実話怪談のその先に。異形のミステリー小説、開幕!


 さて本書は都市伝説に材を採ったミステリ。タイトルにある「電気人間」がそれ。ただ〈「電気人間とは一部地域でのみ語られている、人気のない都市伝説にすぎない〉というものなので、一般的な都市伝説とは趣を異にしている。

そもそも電気人間とはどのような都市伝説なのかについて本書の中では意外なほどに語られていない。語られるのは(繰り返しになるが)、

 語ると現れる。
 人の思考を読む。
 導体を流れ抜ける。
 旧軍により作られる。
 電気で綺麗に人を殺す。

というもの。うーむ、わかったようなわからないような。

当方はわからないなりに読み進んでいったが、すでに読まれた方の一定数は、最終ページに到って「なんじゃこりゃ!」と叫ばれたに違いない。かくいう当方もその一人。いや、怒ってしまった人もいるかもしれない。なるほど、帯裏にある「異形のミステリー小説」という惹句が大げさでもなんでもない小説だ。

とはいえ、最後まで読んでから読み返してみると、このトリックは設定されたルールに基づいてきちんと計算されているのがわかる。うーん、なんだか奥歯にもののはさまったような紹介の仕方だ。しかしネタバレするわけにはいかないのでしょうがないのでご容赦を。

設定や小説内のルールがきちんとしているのに、最終的に提出されるアウトプットがこうなるとは・・・。そのギャップを愉しめるか否かが本書の評価を決定することになるだろう。そういう意味では、やはり生真面目な人にはお奨めできない。当方はそれなりに愉しめたけれど。

ちなみに本書は『 遠海事件 』に引続き地方都市・遠海市を主な舞台にしている。前作からのキャラクタも登場していたりするので順番通りにに読んだほうが吉。

◎関連エントリ
 ・詠坂雄二:『遠海事件』(光文社)


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