山田正紀:『帰り舟 深川川獺界隈』(朝日新聞出版) [book]
牡蠣にあたってしまった。症状はそれほどひどくはなかったんだが、なにしろ胃のむかつきがひどくのた打ち回ってしまった。とはいえ一晩寝て治ったので鉄の胃腸は健在なのだった。
内容(「BOOK」データベースより)
深川で船宿を営む父親に反発し、五年間、諸国をさすらい、賭場から賭場へ渡り歩いた伊佐次は、ひょんなことから故郷に帰ってきた。直後、父親が急死し、遠巻きから葬儀を見守るが、実家には怪しげな者たちが出入りしていた…。書き下ろし傑作・大江戸ピカレスク。
あとがきの著者の言葉によると、本書ははじめてSFでもホラーでもないふつうの時代小説を志向して執筆されたとのこと。とはいえ著者のことであるので、一般的な時代小説と読んでかかると少し違和感があるのではないかと思う。もちろん、当方が一般的な時代小説をあまり読んでいないからかもしれないが。
主人公の伊佐次の人物造形もいつもの著者の作品とは少し違っていて、典型的な小悪党として描かれている。著者らしい飄々とした人間の役回りは、第三章で登場する堀江要ということだろう。
故郷から出て行った男が舞い戻ってきて騒動を巻き起こす、というのは物語の形式として使い勝手のいいものだし、読んでいるほうも安心して頁をめくれる。本書では、伊佐次が故郷に戻ってきた「ひょんなこと」とはある歴史的な人物からの指令によるものだが、このあたりも今後の展開にかかわってくるに違いない。
そう、今後の展開といったが、本書はシリーズもので、且つある映画の一ジャンルを志向しているとのことは上記で触れたあとがきにも明記されている。今後、大きく膨らんでいく物語の序章としてよむべきものだということだ。
したがって本書だけで評価するべきものではなく、シリーズの完結後に総合的に語るべきだろう。著者には幾本か未完決のシリーズがあるので、本シリーズは早期の完結を望みたい。
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