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城繁幸:『たった1%の賃下げが99%を幸せにする』(東洋経済新報社) [book]

たった1%の賃下げが99%を幸せにする

たった1%の賃下げが99%を幸せにする

  • 作者: 城 繁幸
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2009/03/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

日航の再建問題が喧しい。争点の一つにOBたちの年金問題がある。いわゆる厚生年金基金の問題だろう。以前わけあって、当方は厚生年金基金について勉強したことがあるのだが、日航における年金問題は、いわゆる企業年金のことだろうと推察される。

一般的に企業年金の問題は(当方のような半可通な人間が云々するほど単純ではないのだが)、その一つに現役世代とOB世代との相克がある。ようするに、年金基金の資産運用がうまく行かなかった場合、その企業と(結果として)そこで働いている人たちがOBたちの年金原資を補填するという仕組みになっているから。※ちなみに厚生年金基金については『 企業年金の教室 実践編 』がわかりやすかったので、気になる方は読んでみてください。

上記は、実際の日航の問題と合致しているかはわからないし、もし間違っていたらごめんなさいするので指摘して欲しいのだが、まあ、実は同社が債務超過なのは年金基金の積立不足のみならず飛行機の(会計上の)割賦リースもあるだろう。やたら複雑そうな労組との関係も課題であり、新聞紙上で年金問題がやたらとクローズアップされているのは肯んじえない。

そんなことと併せ、いま読んでいる『 希望の国のエクソダス 』の冒頭で語り手のフリーライターが乗った日航の飛行機に、自分のオフクロと見まごうばかりのキャビンアテンダントがいることに驚くシーンがあるのだが、このあたりの事情は「小田嶋隆のア・ピース・オブ・警句」に詳しいので参照して欲しい。


内容(「BOOK」データベースより)
相次ぐ「派遣切り」、「3年3割」問題、転職「35歳限界」説、中堅社員のメンタルトラブル…すべての問題を解消する「秘策」とは―正社員と非正規の99%が幸せに働ける画期的提案。


さて、本書における著者の主張はAmazonの内容紹介にある下記のような下記のような項目に集約されるのだろう。

  • 問題は、「正規・非正規格差」よりも、じつは「世代間格差」にある
  • 中高年の“もらいすぎ”が、若者の雇用を圧迫している
  • 「非正規という調整弁」を使い、「正社員を過保護」できた時代は終わった
  • 今後、「同一労働、同一賃金」の時代がやってくる
  • そこで生き残る「21世紀型人材」とは、どんな人間か?
  • 賃下げは、正規・非正規ともに“幸せ”をもたらす
  • 賃下げのうち、半分は税金で補填すればいい

この中で、「同一労働、同一賃金」ということについては、当方はよく調べたことがないのだが、これは一考に値する論点だと思う。本書で言う「職務給」というやつですね。

で、本書を読みながら当方が違和感を感じ続けたのは「世代間格差」というモノだ。著者が言う世代間格差は、いわゆるロストジェネレーション世代と、まさに当方あたりから上の年齢の正社員ということなんだろう。

確かに、"世代間格差"はある。まちがいなく。でもそれって、当方らの世代がOB世代に感じている厚生年金基金の問題にもあるし、たとえば、当方より10歳くらい上の人間と当方にだって格差はあるんだと思う。

個人的に言えば(まあ、blogって個人的なことなんだけど)、そんな格差については当方はあまり考えないことにしている。考えたってしょうがないし、そんな時間があったら本を読んだり映画を観たりしたいもんね。重要なのはそれらを認識しておくことか。

もちろん、ロストジェネレーション世代の苦労は相当に大きいものではあると想像できる。当方のようにお気楽に就職できてそこそこ暮らしていける賃金をもらっていることが相当に腹立たしいと思っている人もいるに違いない。

じゃあ、世代間で血みどろの抗争を繰り広げることがほんとうに後の世代を助けることになるんだろうか。なんだか、そこには宗教戦争を思わせる次世代から次世代への抗争の連鎖が待っているようにしか思えない。

あと気になったのは、比較的に大規模な企業について言っているのではないか、と思ったこと。世の中の中小の企業は、著者の言う「希望のなさ」度合いがもっともっと高い。地方に単身赴任していると肌身に感じる。大企業での世代間格差とは比べものにならない「格差」だと思う。

ということを、少しばかりまじめに考えさせてくれる起爆剤的要素を持った著作だ。正直なところ著者の主張には首肯できないところはあるが、たぶん、著者はわかってやっているんだと思う。これも作戦のうちだろうし。でも、当方と同世代くらいの人が自身の立ち位置を確認し、この時代の認識と将来について考えるには読まれて欲しいとも思う。


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