スティーヴン・キング:『夕暮れを過ぎて』(文藝春秋社) [book]
かつて村上春樹はインタビューで短編小説は「負け続けるための闘い」であり、長編小説を執筆する行為とまったく違う、と言うようなことを述べられていたと思う。いや、勝ち続けるための闘いだったか、記憶があやふやなのは申し訳ないです。その雑誌は実家に置いてきてしまっているので。
内容(「BOOK」データベースより)
愛娘を亡くした痛手を癒すべく島に移り住んだ女性を見舞った想像も絶する危機とは?平凡な女性の勇気と再生を圧倒的な緊迫感で描き出す「ジンジャーブレッド・ガール」、静かな鎮魂の祈りが胸を打つ「彼らが残したもの」など、切ない悲しみから不思議の物語まで、天才作家キングの多彩な手腕を大いに見せつける傑作短篇集。
本作は、本国では一冊の短編集のものを分冊化した一冊目。冒頭、著者自身による序文で短編小説に対する思い入れがたっぷり綴られている。このあたりは、その昔『 虚航船団 』を執筆し終えた筒井康隆が、怒濤のように短編のアイディアを思いついた、というエピソードを想起させる。
同じ著者の『 ナイトシフト 』は相当に前の作品集だが読んだことがあり、そこから受けた印象とまったく違うことに驚く。分冊一冊目の本書は、限りなく普通小説に近いものと読めたからだ。
当方が最も気に入ったのは「彼等が残したもの」だ。スーパーナチュラルなホラーか思いきや、らしからぬ展開をみせる。9.11がいかに米国のトラウマともいうべき出来事だったことがわかる。そして、キングなりの追悼・鎮魂の思いが伝わってくるのだ。
その他、これまたらしからぬ静謐な印象の「ウィラ」なども好み。キングの円熟を思わせる佳作集だ。
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