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ロス・トーマス:『冷戦交換ゲーム』(早川書房) [book]

冷戦交換ゲーム (Hayakawa pocket mystery books (1044))

冷戦交換ゲーム (Hayakawa pocket mystery books (1044))

  • 作者: ロス・トーマス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1985/12
  • メディア: 新書

 

中学3年生の冬頃だったか、阿刀田高・石川喬司両氏の対談を池袋のリブロに聴きに行った。平日の午後だったからだろうが、聴きに来ていたお客はまばらだった。終了後にサイン会があり、『 街の観覧車 』と、もともと持っていた『 極楽の鬼 』にサインをもらった。実家には、探せばその二冊はあるだろう。


伝説の巨匠がMWA賞に輝いたデビュー作
退役軍人マックがボン郊外で経営するバー〈マックの店〉に突如闖入した覆面の二人は、客に銃弾を撃ち込み逃走した。マックの共同経営者で、実はアメリカのスパイでもあるパディロにかかわる出来事らしい。その裏には、重大なスキャンダルになりうる亡命事件が絡んでいた。真相を知らぬまま陰謀に巻き込まれたマックは、危険なゲームの渦中に……冷戦のさなか、緊張みなぎる東西ドイツに展開する白熱のスパイ・サスペンス!のちに犯罪小説の巨匠として絶大なる人気を得た著者が、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞に輝いた伝説のデビュー作


本書はその『極楽の鬼』でも高評価をうけていた作品。驚くのは翻訳された初版が1968年で、有り体に申し上げれば当方の生まれた年と同じこと。そしてもっと驚くのは、2007年に4刷目であること。よくもまあ、細々とでも売り続けてきたもんだ。

さて、いまさらながら本国では1966年に出版された本書を手に取ったのは、その続編にあたるらしい『 暗殺のジャムセッション 』を買ったから。順番通りに読まなければ、と思ったわけだ。もちろん、著者の作品は『 女刑事の死 』をはじめ数冊読んで好きだった、ということもある。

いささか後ろ向きな動機で読み始めたのだが、一読驚愕、おもしろい小説だ。本書が発表されたのは007シリーズや、ジョン・ル・カレ、レン・デイトンが作品を発表していた時期と重なる。当時の作品群が、残念ながらほとんど忘れ去られているのに対し、細々とでも現代社会で売れ続けているということは、時代を超えたおもしろさをもっているからだ。

登場人物たちは確かに機略に富んでいて行動力もある。でも、ぐったり疲れたときに考えるのはかりかりのベーコンと炒り卵、そしてコーヒーだったりする。そう、非常に共感が持てる人物像なのだ。

あと、淡々とした乾いた文章によけいな心理描写を省いた一人称と洒落た会話やジョークがいい。誤解を承知で言うと、初期の村上春樹作品が思い起こされる。

A‐10奪還チーム出動せよ 』では保留してしまったが、本書を読んで断言できるのは、この40年間でエンタテインメントの小説はほとんど進化しなかったということ。それくらい優れた小説だと思う。若い人よりは当方と同世代以上ぐらいの人にお奨め。


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