SSブログ

山田正紀:『イリュミナシオン 君よ、非情の河を下れ』(早川書房) [book]

イリュミナシオン 君よ、非情の河を下れ

イリュミナシオン 君よ、非情の河を下れ

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/09/18
  • メディア: 単行本

ある程度、年季の入ったSF読みなら"ワイドスクリーン・バロック"というタームをご存知だろう。Wikipediaによると「ブライアン・オールディスが提唱したサイエンス・フィクションの一部の作品群を表す用語」とのこと。

代表する作品と言えば『 キャッチワールド 』や『 カエアンの聖衣 』あたりか。若かりしころにおもしろく読んだのを覚えている。いまみると、両作とも品切か絶版。やっぱり、SFは冬の時代なのか。


内容(「BOOK」データベースより)
内戦に揺れる東アフリカの国家サマリスの国連領事、伊綾剛に突然与えられたのは「アルチュール・ランボー捕獲のためイリュミナシオンへ向かった『反復者』を追って、『非情の河』を下れ」という任務だった!人類の理解を超越した侵略者との戦いを、ランボーの詩に乗せて華麗に奏でる、幻想ハードSF。


著者の後書きによれば、本書は『 ハイペリオン 』にインスパイアされて書き出されたようだが、途中からワイドスクリーン・バロックの萌芽がみられた、とのこと。実は当方は『ハイペリオン』は未読なのだが、その梗概を読むと設定や枠組みは似ているといえるだろう。

ところが終盤に向けての展開は、確かにワイドスクリーン・バロックを感じさせるものになっている。時空を軽々と超えた登場人物たちや最新の科学的記述(疑似?)などなど、めまぐるしいことこのうえない。

で、気をつけて欲しいのは、物語としてはぶっ壊れていること。ストーリーは途中からどうでもよくなっちゃったんじゃないかと思わせる壊れっぷりだ。だから、SF小説を愉しみたいという人にはお奨めするには気が引ける。では愚作なのかと言えばそんなことはない。わけが分からないのにおもしろいというSFとしか言いようがない。

また、従来からの著者の作品のエッセンスが注ぎ込まれた作品という印象を受けた。『反復者』と人類の対立は『 神獣聖戦 』を、時空を超えた人間のあり方については『 最後の敵 』を思い出させる。アルチュール・ランボーが登場した短編もあったように記憶しているしね。

当方には現時点での著者の集大成として位置づけられる怪作と感じられる。SF初心者にはお奨めできないし、著者の作品を初めて読むという方には、その著作を時系列で読み進めてから、と言っておこう。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。