柳広司:『ジョーカー・ゲーム』(角川グループパブリッシング) [book]
やっとこさっとこ入手し読了。結論から申し述べると、期待したほどではなかったが充分に満足できる内容の作品。
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内容(「BOOK」データベースより)
結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「スパイとは“見えない存在”であること」「殺人及び自死は最悪の選択肢」。これが、結城が訓練生に叩き込んだ戒律だった。軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く「魔王」―結城中佐は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を挙げ、陸軍内の敵をも出し抜いてゆく。東京、横浜、上海、ロンドンで繰り広げられる最高にスタイリッシュなスパイ・ミステリー。
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連作中編集という結構の作品だが、全体を通じて共通する登場人物は内容紹介にある結城中佐のみ。実際に現場を動き回る工作員たちは、養成学校であるD機関のいわば卒業試験として事案を任される。
最もおもしろいのは、この養成機関に入学する人物たちの化け物ぶり。主には異様な記憶力だったりするわけだが、もう一つ、人間としてのすべての感情を捨て去れるようなパーソナリティを持っていること。
惜しいのは、そういった特異なパーソナリティと物語に有機的なつながりが少ないこと。そういう意味では最終話の「XXダブルクロス」が違う意味で人間性とは何か、を問うような物語で興味深い。
結城中佐の異様なまでの合理主義や、陸軍内部での生き残り競争など、全体を通底する物語のおもしろさもある。実際に続編は雑誌に掲載されているとのことなので次回作が待ち遠しい。エンタテインメントとしてお奨めできる一級品。
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