香納諒一:『孤独なき地―K・S・P』(徳間書店) [book]
『インビジブル2』,『アローン・イン・ザ・ダーク』,『ブラッドレイン』,『パパラッチ』など、コマ劇場前の新宿トーアで鑑賞した映画は多い。ラインナップをご覧になればおわかりの通り、どうってことないB級作品ばかり。観なくても人生に何ら影響を及ぼさない作品ばかりだ。ところがB級大好きの当方は出向いてしまう。
出向くのはいいんだが、歌舞伎町に行くのは相当に怖い。ここで射殺されてもあまり文句は言えない、ってくらいの剣呑な雰囲気があるように思う。まして一歩うらの路地に入ったりすると、立っているお兄ちゃんがすすっと寄ってきたりするので冷や汗が出る。できれば近づきたくない街ではある。本書はそんな歌舞伎町にある架空の分署に所属する刑事を主人公にしたアクション小説。 『毒のある街―K・S・P2』が出たので手に取ったのだった。
【内容紹介】
新署長赴任の朝、署の正面玄関前で衝撃事件が起きた。刑事と、連行中の容疑者が雑居ビルから狙撃されたのだ。目の前で事件に遭遇したK・S・P(警視庁歌舞伎町特別分室)の沖幹次郎刑事は射殺犯を追う。新宿歌舞伎町を舞台に、警察・暴力団・中国マフィア・汚職企業が絡む連続殺人事件を描く…
冒頭から事件が始まる展開の早い小説だ。主人公が出勤途上で狙撃事件が起こるのだが、いきなり携行していた拳銃で狙撃犯を仕留めるなど、たぶん普段から拳銃を携行している私服刑事なんて日本にはいないと思うから、リアリティはあまり気にしてないんだと思う。別にそれが悪いと言ってるんじゃなく、著者の夢想する現代日本とは異なる歌舞伎町で活躍する警察官のファンタジー小説だと思えば良いわけだ。
そういう意味では、著者の小説として比較的めずらしくキャラクターの立っているところは、そんな意図もあるからだろう。主人公の沖幹次郎はスキンヘッドの容貌魁偉な男で違法すれすれの捜査をする強面の刑事だが落語鑑賞が趣味だったりする。部下の刑事たちもクセのある男たちだ。その他新任署長やキャリア組女警部などキャラクターの魅力で読ませる部分が大きい。
一方でタイトルにあるK・S・P(Kabukicho Special Precinct)は歌舞伎町特別分署の略で、周辺の所轄との軋轢があったり、分署内部でもいがみ合いがあったりと警察内部の縄張り争いはさもありなんというリアリティがあったりで興味深い。
描かれる事件の様相がわりと複雑で追っかけるのに大変。このあたりは著者の良いところでも悪いところでもある。本作では描かれる事件の複雑さが小説のスピード感を殺いでいるところも少なからずあると思う。とはいえ、久々の2段組の単行本300ページ超の読み応えは充分でリーダビリティも高い。1,860円の投資回収は間違いなくできるおもしろ小説として、特に警察小説がお好きな方にはお奨めしたい。
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