福田栄一『あかね雲の夏』(光文社) [book]
田舎暮らしというのはどうなんだろう。まずクルマなしでは過ごせないだろう。当方は駅から3分のところに暮らしているのでクルマの必要性は感じていない。スーパーだってたくさんあるし、コンビニや本屋さんも問題なし。便利この上ないのだ。それでも田舎暮らしについては幾ばくかの憧れがある。かつて智恵子さんは「東京には空がない」といったが、その東の端っこにいてさえ空はない。ある程度、齢を重ねたら田舎に引っ込んで暮らすことも検討しよう。
そんなことを思わずにはいられない魅力的な風景が本作には描かれている。いや、確かに当方もムカデやらクモやら小動物系は苦手だが、この作品の主人公もそうであるようにいつかは慣れるに違いない。この作品ではひと夏の出来事しか描かれていないが、冬は相当に寒いに違いない。それがいちばんの難点だ、きっと。
内容(「MARC」データベースより)
勤務先の突然の倒産で失業者となった安宅俊太にかかってきた、郷里の父親からの電話。とりあえず帰省した俊太は、亡くなったばかりの一族の当主が住んでいた広大な屋敷の、ひと夏限りの住み込み管理人を引き受けたが…。
伊坂幸太郎や道尾秀介が性悪説の小説を書く人だとすれば、坂木司やこの福田栄一という人は性善説の人たちだ。それくらい本書には善人しか出てこない。坂木司の小説に感じるようなほとんどファンタシィの世界ではないけれど、本作もそういう意味で現実離れはしている。それが悪いとは言っていない。当方も面白く読んだわけだし。ただ何というか不惑を超えた人間からすると、こうはいかねえよなあ、とも思ったりする。
とはいえ、リーダビリティに溢れ心地よい時間を過ごさせてくれる小説には違いない。あと3割増し程度書き込んでもらって、もう少し長くこの世界にいたかった。続編を希望。働きすぎて少しお疲れの人々にお薦めしておこう。
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