眉村卓:『司政官全短編』(東京創元社) [book]
著者の『引き潮のとき』を読みかけたのは20歳前後のころで当時から買っていた「SFマガジン」の巻頭連載の半ばだった。中学生からのSFファンでありながら、そのときまで眉村卓の小説を読んだことはなくどうせ長いだけの退屈なもの、とおもっていたがさにあらず。青春18切符で名古屋から横浜まで鈍行で移動中に一巻目を読みきっていたのだった。
あれから20年、実は『引き潮のとき』全五巻は購入はしたものの2巻目で挫折。3巻目からはちょうど就職して以降に刊行されていたから忙しさにかまけて読み進めなかったのだろう。いまでも実家の段ボール箱の中にひっそりと眠っているはずだ。
さて『司政官 全短編』だが、実はもう少しで読了するところなんだけどこれだけ読み終わるのがもったいない、と思う小説は久しぶりだ。「長い暁」からはじまり「限界のヤヌス」までの全5編は1970年代から1980年代に書かれたものだがまったく古びていないところがすごい。
いや、もちろんロボット官僚などというガジェットそれ自体は古くさいのかもしれないけれど、そのガジェットが現代風のものに置き換わったとしても著者の登場ロボットたちに言わせることは変わらないと思う。官僚ロボットたちは惑星統括のために冷徹な計算を進め、一方で統括する惑星で 起こる事象や原住者たち、そして人間たちとの間に入り思索する司政官の相克にドラマが生まれる。
これだけ登場人物たちが細かに考える小説は少ないのではないか。その考え方に対して共感を覚えるところにこのシリーズを読み進める 快感がある。そしてなによりすばらしいのが、この小説がまぎれもなくSF小説であることだ。
うーん。『引き潮のとき』実家から回収してこようかな。それもそうだけど、この勢いで『消滅の光輪』も復刊してください>東京創元社さん。
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