福田和代:『プロメテウス・トラップ』(早川書房) [book]
前作の感想を述べたエントリで、著者の性別はどちらなのかということを書いた覚えがあるが、やはり女性だったようだ。詳しくは朝日新聞のインタビューを参照のこと。近年では気になる作家の一人であるので、処女作の『 ヴィズ・ゼロ 』もすでに購入しているが、最新の本作から読み始めることにした。
内容(「BOOK」データベースより)
かつて天才ハッカーと謳われた“プロメテ”こと能條良明。今は平凡な一プログラマーとして生きる彼に、謎の男からICチップ解析の依頼が舞い込んだ。一見簡単に思えたその仕事が、彼を米国を脅かすサイバーテロ組織との闘いに導いてゆく。パスポート偽造、ソーシャル・ハッキング、スーパーコンピュータでのチェス対決、政府機関へのハッキング等、半神の名を持つ男が強大な敵に次々と挑む連作ミステリ。
上記のインタビューをお読みになった方はおわかりのように、前二作が群像劇を志向して書かれているのに対し、本書は明確な主人公がいるところが新機軸だ。その主人公であるクラッカーのキャラクタが少しばかり没個性的なのが弱い。脇役陣のキャラ立ち度合いは高いので惜しいと思う。
前半部分で描かれるクラッキングのシークエンスもそれほどリアル感がないというのが正直なところ。あまり具体的に書きすぎて真似されちゃっても困るのかもしれないのだが。まるで『 シブミ 』の"裸-殺"という暗殺術が、真似されてはまずいということで具体的に書かれなかったことを思い起こさせる。あ、関係ないか。
あと、ときおり文章でかくっとすることがあったことは明記しておこう。たとえば、「信じられないことだが、どうやら村岡は俗に言う警察エリートらしい。(192ページ)」という文章。警察エリートって言葉より、キャリア組とか警察官僚とか、そういう言葉の方が「らしい」のでは。
と、そんな文句はあるのだが、特に後半以降の展開についてはキレが良く、前半部分とは異なる緊迫感がある。また、ネットの時代における正義とはなにか、というテーマが浮上してくるあたりは気宇壮大といえるだろう。とにもかくにも、著者への期待値はものすごく大きい。いずれ大ブレイクする予感がある。その日までしつこく追い続けることにしよう。
◎関連エントリ
・福田和代:『TOKYO BLACKOUT』(東京創元社)
・福田和代:『黒と赤の潮流』(早川書房)