矢作俊彦,司城志朗:『犬なら普通のこと』(早川書房) [book]
当方のように馬齢を重ねると、宿泊したことのない都道府県は意外に少なくなる。青森・福井・茨城・和歌山・徳島・香川・大分・宮崎・佐賀・沖縄の各県。この中で、足さえ踏み入れたことがないのは沖縄県だ。飛行機には積極的に乗らないので、このままでいくと一生、行くことはないかもしれない。
内容(「BOOK」データベースより)
暑熱の沖縄。ドブを這い回る犬のような人生。もう沢山だ―ヤクザのヨシミは、組で現金約2億円の大取引があると知り、強奪計画を練る。金を奪ってこの島を出るのだ。だが襲撃の夜、ヨシミの放った弾は思いがけない人物の胸を貫く。それは、そこにいるはずのない組長だった。犯人探しに組は騒然とし、警察や米軍までが入り乱れる。次々と起こる不測の事態を、ヨシミは乗り切れるのか。血と暴力の犯罪寓話。
著者たちの作品は『 暗闇にノーサイド 』や『 ブロードウェイの戦車 』、『 サムライ・ノングラータ 』など一通り所有しているのだがまともに読了したことがない。なぜだかわからないが。そんな二人の25年ぶりの新作である本書は、だからはじめて読み終えることができた作品だ。
題材は暗黒小説を思わせるものなので当方の嗜好とは合致しない。まして、あまり土地勘のない沖縄県が舞台となればなおさらだ。しかも、いまだに読了したことがない共作者なので、おっかなびっくり読み始める。
読み進めていくと、意外や、プロットが勝負の小説だということが判明。ヤクザが金を強奪するだけのロマン・ノワールかと思いきや、 梗概にあるように「次々と起こる不測の事態を」主人公がいかにくぐり抜けようとするか、というのが眼目。かつ、そのヤクザ一視点だけではなく、多数の登場人物の視点から物語が語られる群像劇の側面も併せ持っている。
だから、単純な犯罪アクション小説ではなく、先を読ませないエンタテインメントになっている。そして、夏の沖縄が舞台なだけに、非常に汗くさく且つ泥臭い題材の小説でありながらスタイリッシュであるという点が、そんじょそこらの小説と異なっている点だ。やはり、矢作俊彦が参画している作品だからだろう。誰にでもお奨めというわけにはいかないが、気になる方は手に取ってみては。
◎関連エントリ
・矢作俊彦:『リンゴォ・キッドの休日』(角川書店)