高田郁:『八朔の雪―みをつくし料理帖 』(角川春樹事務所) [book]
八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)
- 作者: 高田 郁
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2009/05
- メディア: 文庫
弊blog初の時代小説のエントリ。このジャンルはどうも苦手で、たいていが途中でいやになって放り出してしまうのだ。なぜだかはわからないが。志水辰夫の『 青に候 』も途中までであきらめたくらい。
さて、本書は連作長編なんだけれど、最初の作品である「狐のご祝儀」にべったら市の描写がある。こんな昔からやってるんだ、と思った。今年も行きたいけれど無理だろうなあ。残念だなあ。
<詳細>
神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」。店を任され、調理場で腕を振るう澪は、故郷の大坂で、少女の頃に水害で両親を失い、天涯孤独の身であった。大阪と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねる澪。しかし、そんなある日、彼女の腕を妬み、名料理屋「登龍楼」が非道な妨害をしかけてきたが・・・・・・。料理だけが自分の仕合わせへの道筋と定めた澪の奮闘と、それを囲む人々の人情が織りなす、連作時代小説の傑作ここに誕生!
ということで、本書はおもしろい。ぜひ読んでいただきたい。老若男女問わず、だ。ついでに、ふだん小説を読まない層にもお奨めできる。以上。
と、だけではエントリが寂しいので少し蛇足。まず、登場するキャラクタの人物造形がよい。主人公の澪をはじめとした登場人物たちが生き生きしている。当方は謎の武家である小松原のキャラクタがお気に入り。
そしてテンポのよい筋運び。小難しい紆余曲折はなくストーリーが直球勝負であること。へんにジメジメしていない筆致も良いと思う。まあ、登場人物たちが涙もろ過ぎはしないか、ということはあるが。
本書は、平凡にみえる女性が天性の才能を生かし己の道を突き進む、という構造。これって、『ガラスの仮面』に代表される少女マンガの物語構造のひとつだと思う。
だから小説としては、といっているのではない。物語のおもしろさの構造って、表現形態や媒体を問わない普遍性があるってことだ。ちなみに著者はマンガ原作者としてデビューしていて、なるほど、と感じた。
その他、江戸時代における上方と江戸の比較文化論的なおもしろさもあり、552円(税抜き)という定価からすれば非常にパフォーマンスの高い読書体験ができる。本書では語られない登場人物の過去や背景の伏線も残されており、続編の刊行を鶴首して待とう。
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