ジャック・ヴァンス:『ノパルガース』(早川書房) [book]
SFマガジンの購読を休止したのは過日のエントリで書いたが、理由のひとつには、おもしろそうなSF小説がないから、というのもある。二昔前くらいまでは、バリントン・J・ベイリーやR・A・ラファティ、コードウェイナー・スミスなどがそこそこ翻訳されていて、夢中になって読んでいたものだが。
近年の作家のものだっておもしろいんだろうとは思うが、どうも食指が動かない。みた感じまじめそうだし。偏見もあるかもしれないが、ばかばかしさとか幼稚さがあってこそのSF小説、という考えがあるからかもしれない。
内容(「BOOK」データベースより)
まさかこんなことが!国防総省所属の科学者ポール・バークは愕然とした。謎の異星人に突然拉致され、焦土と化したその母星へと連行されたのだ。自らをトープチュと称する彼らは、通常は見ることも触ることもできない怖るべき寄生生命体ノパルを殱滅すべく戦っているのだという。そして、ノパルの発生源ノパルガースを浄化する協力をバークに求めたのだが、なんと、そのノパルガースとは!?鬼才ヴァンスが放つ戦慄の異世界。
ジャック・ヴァンスの翻訳だ。21世紀も最初の10年期の終わりに、なぜジャック・ヴァンスが、ということはある。なにをいまさら、ではなく、よくぞ出版してくれた、という意味だ。21世紀に日本語でジャック・ヴァンスを読める幸福をぜひ味わってほしい。
さて、当方にとっては「魔王子シリーズ」で絢爛たる異世界を展開した作家の印象が強いのだが、本書は少し趣を異にする。というか、かなり素っ頓狂なSF小説だ。もちろん、褒め言葉である。
ノパルなる寄生生命体の一掃を異星人から強制された主人公が知ったノパルの巣窟とは...。いや、当方にとっては意外だった。序盤でこれほど驚かされるとは。まさにセンス・オブ・ワンダー。よくある寄生生命体ものの逆を行くような、誰もが思いつきそうなアイディアだが、この発想は初めてだと思う。
その後、さらに驚かされる展開があったりして、このようなアイディアストーリーを読むことになるとは思わなかった。古き良きSF小説を読んだ感じだ。まあ、そりゃそうだ、本国での出版は1966年だもの。
あまりネタバレしたくないのだが、「落語かよ!」と突っ込みたくなるようなラストもすばらしい。当方としては本書をSFホラー落語と認定したうえで、いまどきのまじめなSF小説に疲れた人にお奨めしたい。
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