福田栄一:『晴れた日は、お隣さんと。』(メディアファクトリー) [book]
結局、東京に住んでいたときには近所づきあいをするような人はいなかった。敢えて言えば近所の飲み屋さんがそうか。たまにお土産を渡してよろこんでもらったりとか、当方が転勤すると言ったときにちょっと寂しそうだったことだとか。ご近所とかお隣とか、やっぱり人間には必要なものだと思う瞬間だった。
内容(「BOOK」データベースより)
社会人一年目、新生活に胸を膨らませる菜美が、新居の窓から目にしたのは、なんと全裸の男だった!子供たち相手に塾を営む元大学教授の増渕は、ちょっと変わったお隣さん。のんびりとした人柄の反面、無邪気で奇抜な行動に驚かされてばかり。家族とは別居、大学を辞めた経緯も不明と、謎も多い増渕だが、どうやら過去に秘密があるらしく…。
著者の作品を読むのは何冊目だろう。正直なところ、それほど好きなタイプの小説というわけでもないのだが。でもなんとなく読んでしまうのは、やはり作品からにじみ出てくる著者の人間への共感が好きだからなんだろう。
作品群に共通していえるのは、登場人物たちが適度なお節介さを持っていることだと思う。お節介焼き。ああ、絶滅危惧種だ。当方とてお節介を焼くのも焼かれるのも嫌いな方だし。
本作を読んでいても、登場人物たちが適度にお節介を焼きながらつかずはなれずのスタンスを築いていく様子が好もしい。そこには当方のような人間が失ってしまった共生という空間がある。なんだかんだ言っても一人では生きられない、ってこと軽い筆致で描いているのがいい。
もちろん本書は軽く読める読み物で、10年後20年後まで読み継がれるものではないのかも知れないけれど、いつもステーキばかり食うのではなくたまにはホタルイカの沖漬けを食いたいということもあるのであって、そんなニーズ(どんなニーズだ?)には充分に応えてくれる小品だ。当方としては後ろ向きながらお奨め。
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