唯川恵:『愛に似たもの』(集英社) [book]
弊ブログで紹介している書籍は主には国内エンタテインメントだが、ここまで女性作家の小説を紹介したことはなかった。理由は簡単、女性作家の小説を読むことが少ないから。女性の書く小説が意図するものと当方の感覚が合わない場合が多いように思う。もちろん、読めば面白いものもあるに違いない。で、本作はここ数年間では本当に久しぶりに読んだ女性作家の小説だ。
内容紹介
羨望、嫉妬、優越感・・・・・誰もが認めたくない感情に足元をすくわれ、“不幸”へと落ちていく8人の女たち。人間の愚かさやズルさをストレートにテーマにしたブラックな短編集。身につまされます!
柴田連三郎賞の受賞作品。そのせいでか、Amazonから奨められたので手に取ったのだが、これがやたらとおもしろかった。8編の短めの短編からなる短編集。主人公は皆、少しばかりのツキのなさや不幸を抱えながら生活している女性。彼女たちがちょっとした歯車の狂いで陥った先にまちうけるものは...
人間の心の奥に潜む狂気を描いたものがあれば、笑劇めいてはいながらちょっと笑えないような短編があったりする。いずれもサスペンスフルで、月並みな言い方だが「女って怖い」と男性に恐怖を抱かせるには充分なパワーを持っている。
一方で、これらの小説が現代の家族の風景を描いたものと当方は読んだ。既婚・未婚にかかわらず、主人公の多くが抱えている孤独や焦りは、セーフティネットとしての家族の終焉を描いたものであるのかもしれない。そういう意味で最終話の「帰郷」はそんな終焉の光景を描きながらも一縷の希望を感じさせることで余韻を残す佳作と思った。単行本1,300円(税抜き)ならば買って損はないと思うのであった。
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