川端裕人:『エピデミック』(角川書店) [book]
一言で言えばバイオハザード・サスペンスといえる。
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とある首都圏の温暖な半島の一地域で、これまでに見られなかった感染症と思しき症状で倒れる患者が病院に運び込まれる。偶然にその場所にいた国立集団感染予防管理センター実地疫学隊(フィールドエピデミオロジーチーム)隊員・島袋ケイトが初動に入る...
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感染ものというのは古くは『 アンドロメダ病原体 』を代表として、サスペンスの一ジャンルとしてそう目新しいものではない。だが、この作品はその切り口として「疫学」を持ってきているのが新しいといえる。著者の作品を読むのははじめてだが、来歴にはテレビ局の科学放送記者であったとの旨があり、このあたりの取材の綿密さには頷けるものがある。
一応の主人公は女性疫学者ではあるが、状況と闘う登場人物たちも個性的に色分けされ群像劇の趣がある。天災肌の疫学者や獣医、科学特捜隊オタクの疫学隊長など。著者自身は、忠犬顔の新聞記者に投影されているのかもしれない。開業医のお手伝いの肝っ玉看護師は好みのキャラクターだ。
謎が謎を呼ぶという体裁のストーリーではない。だから物語の疾走感には欠けるきらいはあるが、感染の元たる病原体の正体や感染源は何なのか、という興味で1,100枚の長丁場を最後まで引っ張っていく。これは伏線かな、と思えるようなことが結局は回収されないので若干の爽快感が欠けるということはあるが、1,995円のコストパフォーマンスは充分に望める力作であると思う。
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