チャールズ・ストロス:『残虐行為記録保管所』:その2(早川書房) [book]
残虐行為記録保管所 (海外SFノヴェルズ) (海外SFノヴェルズ)
- 作者: チャールズ・ストロス
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/12/14
- メディア: 単行本
さてさて。肝心の本書の読後感です。あらすじについてはここをご参照いただくとして、表題作の短めの長編である「残虐行為記録保管所」と中篇「コンクリート・ジャングル」(2005年ヒューゴー賞受賞作)の二編を収録。いずれも英国の魔術的災厄を防止する組織である「ランドリー」の新人エージェント、ボブ・ハワードが主人公。
「SF+クトゥルー+スパイスリラー」という謳い文句だが、もっともおもしろく読めたのは官僚主義の不条理ともいうべきシチュエーション。SF+スパイスリラーというと思い出すのは『プリズナーNo.6』だが、あの不条理感と共通するものがある。また、前述のレン・デイトンの一連の小説の影響はこのあたりかな、とも思った。なにしろ主人公は新米エージェントながら、時空を捻じ曲げるような魔術的存在と対等に張り合うのに、官僚主義の権化のような女性上司にはたじたじなのだ。
科学や魔術、コンピュータ関連の用語やガジェットが飛び交い、SASのような特殊部隊が登場したり、とハイブリッド・エンタテインメントともいうべきにぎやかさが特徴。ただしリーダビリティに溢れているかというとちょっと疑問。おそらく翻訳者の方も苦労されたであろう回りくどい文章でスイスイ読ませるという小説ではない。そこのところをマイナスと見るか英国らしい雰囲気とみるかで評価が分かれるかもしれない。総じておもしろく読めたものの、2,100円の単行本はちょっとコストパフォーマンスが低いかな、と思った次第。
あ、そうそう、このエントリの冒頭の画像は「コンクリート・ジャングル」に出てくるコンクリートの牛の実物画像です。
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