深緑野分:『戦場のコックたち』(東京創元社) [book]
【内容紹介】
1944年、合衆国軍のコック兵となった19歳のティム。彼と仲間たちが戦場で遭遇したささやかだが不可思議な謎とは――戦いと料理と〈日常の謎〉を連作形式で描く、著者渾身の初長編!
昨年度の各ミステリランキングの上位に食い込んだ本作は、期待に違わぬ秀作だ。老若男女問わずにおすすめできる。特に若い人には読んでほしい。迷わず本屋さんに走るか、図書館で取り寄せ(直木賞候補になっただけに予約待ちになってます)してほしい。以上。
というわけで以下は蛇足である。まず、非常に丁寧に書き込まれてあるところがいい。二段組み349頁の小説なんて久しぶりだ。主には戦闘や戦場のディテールの描写に注力されていて、それは巻末に列挙されている膨大な参考文献からしても明らかだ。そして、その描写がくどいわけではなく、リアリティのある世界を構築しているところに著者の筆力を感じさせる。壮大な嘘をつくには、周囲に細かい真実をちりばめる必要がある、というようなことはよく言われるが、本書はそこに成功しているのだ。
ミステリとしては、戦場を舞台としつつほのぼのとした日常の謎を解く、という話ではまったくなく、相応にハードな題材を扱っている。連作長編形式で、それぞれに日常的な謎があるのだけれど、それは戦場という非日常のなかの日常であり重いものになっている。全体でも、終盤以降の意想外の展開には驚かされた。
そして何よりも素晴らしいのは、本書が少年から青年へと成長していく男とその友情を真っ向から描いている物語だといういことだ。ヤングアダルト小説とは呼びたくない、ジュブナイルという絶滅してしまったジャンルを想起させる。冒頭に「若い人」と申し上げたが、そのくらい良い意味での読みやすさ・わかりやすさがある。
長編第一作目なのに直木賞候補になるのも頷ける秀作。読んでおいて損はない。
そういえば、ミハイロフ中尉の秘密は最後まで語られなかったんだけど、そういういことでいいんですよね(笑)
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