ジャック・ヴァンス:『奇跡なす者たち』(国書刊行会) [book]
初めに告白しておかねばならないのは、本書も該当するシリーズである<未来の文学>叢書はすべて所有しているのだが、実は一冊も読了したことがない。
内容(「BOOK」データベースより)
独特のユーモアで彩られた、魅力あふれる異郷描写で熱狂的なファンを持ち、ダン・シモンズやジョージ・R・R・マーティンらに多大な影響を与えてきた名匠ヴァンス、浅倉久志編による本邦初の短篇集が登場! 代表作「月の蛾」からヒューゴー/ネビュラ両賞受賞作「最後の城」までヴァンスの魅力を凝縮したベスト・コレクション、全8篇。
初めて読了した<未来の文学>シリーズの一冊が本書であることは当方にとってはとても納得できることだった。誤解を承知で言えば、ジャック・ヴァンスは大衆向けの通俗作家だと思うから。プロットはそれほど複雑ではないし、ちりばめられた伏線も最後にはきちんと回収される。わかりやすい物語作家といえるだろう。
にもかかわらず、凡百のSF作家と異なる点は、なんとも言いがたい雰囲気というか品格というか、いまどきの物語が失ってしまったものに満ち溢れているから。その感覚は本書でも再確認できた。
白眉は後半の中篇三作、「奇跡なす者たち」、「月の蛾」、「最後の城」だろう。また「保護色」は、昔懐かしきスペースオペラを想起させる無茶苦茶さがあったりして愉しめる。思いのほかヴァラエティに富んだ作品集で、間違いなくおすすめできる一冊。