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福田栄一:『狩眼』(講談社) [ebook]

狩眼 (講談社ノベルス)

狩眼 (講談社ノベルス)

  • 作者: 福田 栄一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/09/08
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
多摩川河川敷で、野田という医師の両眼が刳り抜かれた死体が発見された。事件から二週間経っても、所轄の南多摩署の刑事課は有力な情報も得られず、捜査は行き詰まる。そんな中、若手刑事の伊瀬は上司の水野から、突如別の任務を与えられた。それは、警視庁本部からきた戸垣巡査部長と組んだ、独自の“調査”だった。異常犯vs.若手&ベテラン刑事との攻防戦。

従来まで当方が読んできた著者の作品は青春小説が主流。もちろん、出版社から想像されるような、ミステリとの境界線上にある『 エンド・クレジットに最適な夏 』のような作品もあったが。ところが本書は"講談社ノベルズ"というレーベルや上記の梗概のとおり、サイコキラーもの、且つ泥臭い警察小説の側面を持ち合わせているガチガチのミステリである。

読み始めると、著者の作品らしく登場人物たちの人間像が相変わらずうまく描かれている。安定した公務員の一職種として警察官という職業を選びながら、仕事にのめりこんでいく若手刑事の伊瀬の目を通して物語は進む。伊勢は敬愛する上司から押し付けられたかたちで警視庁の戸垣と捜査を共にする。その戸垣は組織で動くことが当然の警察組織にありながら独自の単独捜査を行う異端の人物だった…。

いわば映画のバディもののような構図だが、ふつうと少し違うのが、その戸垣が作中で相棒である伊瀬とほとんどしゃべらないこと。著者が意識してそんな描き方をしたのかはわからないが妙に新鮮さを感じてしまった。また、戸垣のエキセントリックな雰囲気や行動はオーギュスト・デュパンから連綿と続く"名探偵"のDNAを受け継いでいる人物像のように思える。最後まで読むと、その性格付けには現代的な意匠もこらされていることがわかるのだが。

それではキャラクタのおもしろさだけで読ませる小説なのかといえばそんなことはない。ミステリとしてのプロットもしっかり練られていて、読者に対するひっかけもあったりでかなり巧い。なんだか、久しぶりに"推理小説"を読んだ気がする。もちろん、ネタバレになるので詳細については本書を読んで確認していただきたい。

それにしても、著者は職人気質の面のある作家で当方が好むところなのだが、当方が好む作家はだいたいが好調なセールスを記録していないであろうと思われる場合が多い。著者の作品も、日々、刊行される新刊書籍に押し流されてしまうには惜しいものが多いから、もっと注目されていいと思う。


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