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佐伯啓思:『現代文明論講義 ニヒリズムをめぐる京大生との対話』(筑摩書房) [book]

現代文明論講義 ニヒリズムをめぐる京大生との対話 (ちくま新書)

現代文明論講義 ニヒリズムをめぐる京大生との対話 (ちくま新書)

  • 作者: 佐伯 啓思
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/06/08
  • メディア: 単行本

Amazon.co.jpの2010年度の和書出版社別年間売上ランキングを見ると、23位の早川書房は2009年度から14位もランクアップしていることが見て取れる。これすなわち、『 これからの「正義」の話をしよう 』のベストセラー入りが主要因だろう。当方もSONYのReaderのローンチ・タイトルだったから電子書籍で購入し一応は読了している。そう、"一応"なのである。

前半部の「1人を殺せば5人が助かる状況があったとしたら、あなたはその1人を殺すべきか?  金持ちに高い税金を課し、貧しい人びとに再分配するのは公正なことだろうか?  前の世代が犯した過ちについて、私たちに償いの義務はあるのだろうか――」という具体的な問いかけによる思索はわかりやすかった。

ところがね、後半部になるとどうも難解になってくる。正直なところ、読み進めるのが苦痛に近いものがあった。だから、自分のことを棚に上げて言うのもなんだが、どういう客層がこの本を購入し、そのうちどのくらいが読了できたのか、どれくらいの人が理解できたのか、興味深いところではある。推測するには当方と同世代前後の会社員か、やはり学生だろう。あるいは、テレビ放送を視た層なのだろうか。

当然、といっていいのか悪いのかわからないが、話題になった番組の『ハーバード白熱教室』の後にその日本版が放映されるようになったり、同書の柳の下の泥鰌を狙う出版社が雨後の筍のように現れてくるのもままあることだ。


内容(「BOOK」データベースより)
「なぜ人を殺してはいけないのか」「なぜ民主主義はうまくいかないのか」―現代の社会の抱えるさまざまな難問について、京大生に問いかけ、語り合う。若い学生たちの意外な本音から、戦後日本、さらには現代文明の混迷が浮かび上がってくる。旧来の思想―戦後民主主義や功利主義、リベラリズム、リバタリアニズムでは解決しきれない問題をいかに考えるべきか。アポリアの深層にあるニヒリズムという病を見据え、それを乗り越えるべく、日本思想のもつ可能性を再考する。

本書はそんな柳の下の泥鰌と一線を画す、というわけではなく、著者自身が前書きでサンデルの講義を意識したうえでの講義録であることを語っている。柳の下の泥鰌そのものといえるのだが、不味かったのかというとそんなことはなく当方にはとても愉しめたのだった。

単純な脳、複雑な「私」 』でもそうだったのだが、講義録という形式を当方が好んでいるということが一因。単純に、語りかけるという行為と、聴講する人との論議がわかりやすさを生むということがある。

特に、具体的な事例を基にリバタリアニズム・リベラリズム・功利主義・ポストモダニズムのそれぞれの立ち位置について説明する場面が当方にとっては白眉だった。もちろん、それぞれの思想はそんなに単純なことではないのだろうが、初心者にはとっつきやすい説明だった。

また、時事ネタを材料にしながら討議するというのもわかりやすい。尖閣諸島の件を題材にして「国を守る」とはどういうことなのか、という問いかけは蒙を啓かれた感がある。

浅学にして著者のことは知らなかったが、他の著作を読んでみようという気を起こさせる一冊。もちろん、哲学・思想関連の書物は人の好悪が激しく別れるから声高にお奨めはできないが。


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