矢作俊彦:『引擎/ENGINE』(新潮社) [book]
タイトルの「引擎」は中国語で「エンジン」を意味し、「ピンイン:yǐnqíng」と発音するらしい。ネットで検索しただけなんだけどね。ちなみに本書は新庁舎新潮社の雑誌「ENGINE」に2004年に連載されていたもの。
高級外車窃盗団を追う築地署の刑事・游二(りゅうじ)の前に、その女は立ちふさがった。ティファニーのショウウインドーに.30カービン弾をぶちこみ、消えた女。魔に取り憑かれたかのように、彼は女を追い始める。宝石店襲撃、刑事殺し、高級車炎上、ビル爆破……息もつかせぬ緊迫の展開。著者渾身の傑作! 銃弾で描いた狂恋。
ということもあってからだろう、本書は高級車の窃盗団を追う警察官たちのシーンから始まる。以降、著者の作品年としては珍しいバイオレンスシーンが続く物語となっている。そうはいっても、矢作節は相変わらずで、登場人物たちのワイズクラックの応酬が愉しめることは間違いない。
あと、主人公の游二が品川の海っぺりに住んでいたりと、二村シリーズを髣髴とさせる部分もある。やはり、著者の小説には海とか運河のある街が似合うような気がする。
警察小説、あるいは暗黒小説を思わせる筋運びを読んでいくと、いつのまにかその様相を変えてくるという手管を、わかりにくいと感じるか否かでその印象が違う小説だ。当方はわかりやすいと思ったクチで、そこに少しばかりの物足りなさを感じた。とはいえ、いまだに新刊で著者の小説を読めるというのはうれしいことだ。