野村進:『調べる技術・書く技術』(講談社) [book]
著者の作品は意外に読んできている。大宅賞受賞作の『 コリアン世界の旅 』をはじめとして、『 救急精神病棟 』や『 千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン 』と、いずれも著者の作品と意識せず手に取ったのが不思議だ。多分に著者の選ぶ題材が当方の関心に引っかかるものがあったからだろうと推測される。
内容(「BOOK」データベースより)
テーマの選び方、資料収集法、取材の実際から原稿完成まで、丁寧に教える。これがプロの「知的生産術」だ!
さて、本書はノンフィクション作家やルポライタ、あるいはいわゆる記者(新聞や雑誌ほか)を目指す人向けに書かれているもの。だからなのかどうかは判然としないが、書く技術というよりはむしろ調べる技術に紙幅が多く割かれている。
就中、インタビューの技術のヴォリュームが多い…という印象があったのだが、冷静に目次を見てみるとそんなこともない。逆に言えば、そんな印象を受けたのは、インタビューという営為がノンフィクションを執筆するに当たっての重要事項と著者が捉えている証左に違いない。
「調べる」ことは、正しい場所(現場から図書館まで)や正しい情報源、そしてきちんとウラを取りさえすれば一定程度の水準までは達することは可能だろう。しかし、生身の人間と相対し有益な情報を得るということは、それまで得た情報を後ろ盾にしてなお、五感を研ぎ澄まして臨まないと成果を得るのが難しいと、そんな主張を読み取ることができる。
弊ブログをご覧の方は、当方がルポやノンフィクションというジャンルは好んでいるのはおわかりだろうが、読んでいる当人は、これほどの技術が必要とは思い至らなかったということがある。書き手たちは、まずは胆力、そして場数を踏んでスキルを向上させているんだろう。恐れ入ってしまう。
当方はもはや、そういった道に入り込むにはロートルではある。じゃあ、なぜ手に取ったのかといわれると良くわからないというのが不思議なのだが、やはり本書はルポライターなどを目指す若者向けという位置づけだ。 とはいうものの、ノンフィクション作家の執筆の舞台裏を覗けるという意味では愉しい読書になったのであった。