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夢野久作:『ドグラ・マグラ』(青空文庫) [ebook]

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 ドグラ・マグラ (青空文庫)                                 作者:夢野久作                                             出版社/メーカー:青空文庫                                      発売日:-/-                                                メディア:電子書籍(pdf)

まずは書誌的なことからご紹介しよう。今回、青空文庫の底本となったのは筑摩書房の『 夢野久作全集〈9〉 』だ。そして出版までの経緯については、いつものことながらwikipediaからの孫引きを記述しておく(太文字部分がwikipediaからの引用部分)。

1935年(昭和10年)1月、松柏館書店より書下し作品として刊行された」作品で、構想・執筆に10年以上の歳月をかけ」たとのこと。基となったのは「作家として作品を発表し始めた頃に書き始められた、精神病者に関する小説『狂人の開放治療』」で、本書を世に問うた翌年に著者は逝去したとのことだ。著者の略歴については、それこそググっていただいたうえでwikipediaなりを参照していただきたい。※wikipediaでは上記のように『狂人の開放治療』と表記されているが、実際には「解放治療」ではないかと推測される。

さて、75年前に出版された作品が、21世紀の最初の10年紀を過ぎた今でも文庫で読めるということ、そしておそらくは売れ続けているであろうことには驚嘆させられる。そんな作品を読み終わったとき、どんな感想を抱くのかが我ながら興味深いと思うのだった。

まず、記憶喪失の語り手が目覚めるというシーンから物語が始まる。そういったオープニング自体がすでに消費され尽くしてしまった現在、冒頭の驚きは残念ながら少なかった。とはいえ、記憶喪失の人物を主人公にした小説が1935年以前にあったかさだかではないので、本書が出版された当時の読者には新鮮なものであったのかもしれない。※1935年以前に書かれた小説でそういう題材のモノがあったらご指摘ください。

そして、「心理遺伝」や「骨相学」など、現代ではいわゆるトンデモ科学に類されるものが描かれていることを、どのように解釈すればいいのか戸惑ってしまった。大真面目に登場人物に語らせたのか、それともそれらの思想に対する皮肉なのか。当方はなんとなく前者のような気がする。そこにも違和感ありだった。

なので、そういった題材が奇想小説の由来かと思いきやさにあらず。実は、主人公が精神病理学者の遺した書類を読み始めてから、本書はメタフィクションの様相を帯びてくる。すなわち、論文や警察の調書・新聞記事などが一人称の語り手の目を通して読者に提出されるのだ。

就中(なかんずく、と読むのだよ)、ある登場人物の先祖について擬古文調で語られるくだりや、そのまた先祖の始皇帝の時代の中国における物語が語られるところなど、小説内伝奇小説といった風情がある。そこかしこにコメディの雰囲気もあり、なんだか大真面目に冗談を言われているような気がする。そう、奇想小説というよりは実験小説と思えるのだ。

そして、何より素晴らしいのはその文章のテンポの良さ・心地よさだ。なんというのかね、落語とか講談とか真面目に聴いたことはないけれど、あの日本語の感覚に近いと感じられた。著者は謡曲喜多流の教授をしていたことがあるらしいから、そのあたりの影響もあるにちがいない。

と思ったのが中盤終了までで、それ以降はネタバレとなりそうだから詳述は控えておこう。読み終えてみると、なるほど三大奇書といわれるのが不思議じゃない迷宮感覚に襲われる。電子書籍リーダでpdfの1,000ページを読み終えて感じたのは、いろんな小説形式やアイデアのごった煮という感があるが、そのなかに得も言われぬ秩序があるのが不思議な小説、ということだった。どっとはらい。


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