夢枕獏:『キマイラ9 玄象変』(朝日新聞出版) [book]
朝日ソノラマが斃れてから数年、ソノラマ文庫にあったコンテンツがどのようになっているか詳細は調べていないが、<キマイラ孔>シリーズは朝日新聞出版社に引き継がれた。そのせいか、タイトルに巻数が入ったのだね。古くからのファンは違和感を持つと思うのだが、営業施策としては巻数があった方がいいのだろうか。
内容(「BOOK」データベースより)
久鬼玄造、修羅の旅はまだ終わらない。己の内に「獣」を秘めた青年、久鬼麗一と大鳳吼。二人の出生の秘密を知る久鬼玄造は、若いころ、西域探検隊が持ち込んだ「キマイラの腕」を預かり、修羅の旅を始めていたのだった。その数奇ないきさつを語り終えた玄造は、いまや幻獣と化した麗一の出没する南アルプスの山中へ向かう。だが、その地では、あの異能の格闘家、龍王院弘もまた、呻吟しているのだった。待望の書き下ろし新作、登場。
さて、八年ぶりのシリーズ最新刊である。八年前と言えば、当方はまだ三十代前半であった。たとえば、ということであれば新生児ならすでに小学生である。ここでは敢えて言っておこう、いくらなんでも待たせすぎだ。第一巻を読み始めた頃に、主人公たちと同世代の高校生であった当方は、いまや不惑を越えて髪の毛も薄くなってきて、知らないオジサンから「おとうさん」と呼びかけられるようになってしまっているのである…orz
いや、すまない、興奮してしまった。それくらい鶴首して待っていたのだ。経年劣化している頭脳は玄造の昔語りになってからの詳細はほとんど忘れてしまっていたので、冒頭のあらすじには助けられてしまった。内容は、ここのところ続いていた西域編からようやっと現代(というか1980年代頃の現代だろうね)に戻ってきたというもの。本作自体が、全体の中で転章という位置付けと言っていい。
繰り返しになるが、本書を読めることは旧来からのファンとしてまことに喜ばしい。それでもね、なんというか、一抹の寂しさを覚えたのもまた事実。本シリーズの伝奇小説としてのおもしろさや、格闘技小説としての側面、そしてなによりも"キマイラ"という魅力的な謎の解明が、これからもまだ味わえるという期待がある一方で、もう一つの重要なテーマであった「若者たちの成長」を軸とした青春小説という側面が薄まってきてしまっているから。本書では、舞台が現代に戻ってきたので、今後はそのあたりを期待したいと思う。