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マイケル・ルイス:『マネー・ボール』(武田ランダムハウスジャパン) [book]

マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)

マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)

  • 作者: マイケル・ルイス
  • 出版社/メーカー: ランダムハウス講談社
  • 発売日: 2006/03/02
  • メディア: 文庫

ひとり暮らしが三年目ともなると、ひとり居酒屋はもちろんのこと、ひとり焼肉やひとり回転寿司も怖くなくなってくる。そのときには手持ち無沙汰なので文庫本を小脇に抱えて行ったりするのだが、多くの場合、数ページで読むのをやめてしまう。ところがね、本書は喧騒の居酒屋に一人いながら三分の二を読みきってしまった。もちろん、それくらいおもしろくて夢中になれるということだ。


内容(「BOOK」データベースより)
メジャーリーグの球団アスレチックスの年俸トータルはヤンキースの3分の1でしかないのに、成績はほぼ同等。この不思議な現象はゼネラルマネージャーのビリー=ビーンの革命的な考え方のせいだ。その魅力的な考え方はなんにでも応用できる。マイケル・ルイスはこの本で、その考え方を、切れ味のいい文体で、伝記を書くように書いた。ここには選手たちがたどる数々の人生の感動と、人が生きていくための勇気が溢れている。

梗概に記述されているように、アスレチックスが異色であることは、はなしには聞いていたが、どうやら映画化されるらしいことを知り文庫ということもあって入手したのだった。どのように異色であるかといえば、これまた梗概にあるようにコスト対パフォーマンスが異常に高いと言うこと。

実際、本書で描かれる中心人物であるアスレチックスのゼネラルマネージャーのビリー・ビーンが「1997年10月にGMに就任してから、2007年度シーズン終了時点までの10年間に積み上げた白星は、ヤンキースとレッドソックスに次ぐアメリカン・リーグ三位の901個。この間、チームをプレーオフに5回導いている」とのこと。詳しくは下記リンクを参照ということで丸投げしておこう。

◆ビリー・ビーン - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%B3

なぜそんなことが可能だったのか? 一言で言ってしまえば、勝率を上げるための要素分析の結果、従来まで重要視されてこなかった要素を評価の基準にしたということだ。一例を挙げれば、「出塁率」というものがそう。ちなみに、本書では意外にその細部については触れられていないので、読もうと思われている方は事前に上記のWikipediaの記事を参照しておくことをお奨めする。

当方が興味深く思ったのは、ビリー・ビーンの片腕とも言えるポール・デポデスタという人物。ハーバード大卒の秀才でプロ野球未経験者の彼が、冷徹にシーズンの見通しを立てるシーンは秀逸(193~194ページ)。プレーオフに進出するための勝ち数95勝・得失点差135点をはじき出した彼はこう言う。


「95勝上げてプレーオフに出られないケースはほとんどありません」とポールは言う。「もし95勝してだめだったら、それはそれでいいんです」
 

なんだか、プロ野球球団組織に属する人物とは思えない。本書のおもしろさは、セイバーメトリックスの考え方を導入した弱小球団がいかに躍進したのか、という面がもちろん大きい。けれど同等かそれ以上に、これまで主流だった野球に対するアプローチに捉われずに「我が道」を行く人々を描く「畸人伝」のおもしろさがあると思う。

最後に、歯切れが良く読みやすい翻訳もリーダビリティの高さに貢献していると感じた。翻訳モノというと読みにくいと思っている方にもお奨めできる秀作だ。


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