貴志祐介:『ダーク・ゾーン』(祥伝社) [book]
内容紹介
神の仕掛けか、悪魔の所業か。
地獄のバトルが今、始まる!
戦え。戦い続けろ。
1997年日本ホラー小説大賞、2005年日本推理作家協会賞長編賞、2008年日本SF大賞、2010年第1回山田風太郎賞 各賞撃破! エンターテインメント界の鬼才が贈る最新長編!
「覚えてないの? ここ、端島じゃない。こんな場所、ほかにないもの」 その名前に触発されて、いくつかの情景が意識に現れようとした。しかし、その映像はぐにゃりと歪み、闇の中に溶け去ってしまう。まるで、この島に関する記憶は、絶対に思い出してはいけない禁忌であるかのように。 「そうか……そうだった。俺も、たしかに、ここへ来たことがある」 長崎市の沖合にある、遺棄された海底炭坑の島──端島。コンクリートの護岸に囲まれて、建物が密集した独特の外観から、軍艦島という通称で知られている。だが、何のために、こんな島へ来たのかは、思い出せない。まして、なぜ、ここで戦わされているのかは、見当もつかなかった。(本文より)
『 悪の教典 』はいまだに購入していないのに本書を先んじて読了。やはりおもしろい。まさに巻置くあたわずのおもしろさだ。正直、取り立てて文章がすばらしいとかアイディアが斬新だというわけでもない。どちらかというとありもののプロットを上手にアレンジして破綻のない構成で読者に提供するという感じ。
本書で言えば、プロットは『 クリムゾンの迷宮 』とまったく一緒。記憶を失った男が見知らぬ土地に放り出され、そこで生死を賭けたサバイバルを繰り広げる。というもの。いや、ほんとにまったく一緒なんだよ。ところが、そこに著者がリスペクトしている山田風太郎の「忍法帖」モノのアレンジが加えられると、そこには読むのを止められない世界が現出するのだ。
感じたのは、著者の描く世界には著者しか描き得ない世界観があるということだと思う。その世界観が他の作家とどうちがうのか、と問われると即答できないのだけど。
ただ、言えそうなのはSF的なフェロモンがそこかしこにあること。『 新世界より 』がSFマガジンの新人賞に入選した作品を基にしていることは周知だろうが、世界を創造してからそこに登場人物たちを活躍させるというSF的なアプローチにそのおもしろさの要素があると思っている。そりゃ、当方がSF好きという贔屓目があるのだろうけど。
ある種の無茶苦茶な小説が読みたいという人にはお奨め。まじめな読者には向かないだろう。読み進めていくと造本の意図がわかるというのも洒落ている。これだから単行本を買うのがやめられない。
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