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ヘレン・マクロイ:『殺す者と殺される者』(東京創元社) [book]

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)

  • 作者: ヘレン・マクロイ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/12/20
  • メディア: 文庫

本書もまた、当方が中学生くらいの時に、名のみ知られる作品として有名だった。いまどきの人は知らないだろうけれど、むかしはミステリマガジンなどの読者の声欄に「売ります・買います」のコーナーがあり、本書はそのニーズ(求む、のほうの)が高かったことを覚えている。


内容(「BOOK」データベースより)
遺産を相続し、不慮の事故から回復したのを契機に、職を辞して亡母の故郷クリアウォーターへと移住したハリー・ディーン。人妻となった想い人と再会し、新生活を始めた彼の身辺で、異変が続発する。消えた運転免許証、差出人不明の手紙、謎の徘徊者…そしてついには、痛ましい事件が―。この町で、何が起きているのか?マクロイが持てる技巧を総動員して著した、珠玉の逸品。


それにしても、『 幽霊の2/3 』でも感じたが、ヘレン・マクロイってタイトルの付け方がもの凄くうまいと思う。本書もまた、「殺す者と殺される者」というタイトルに重層的な意味を持させつつ、それ以外には考えられないしっくりしたものになっているのがすばらしい。

さて、本書を読み始めると、その記述からくる違和感のあからさまさに驚くことと思う。伏線と言うにはあけっぴろげ。すれっからしの読者は、このあたりはどのように回収されるんだろうと、そちらのほうに興味が向くだろう。

いわゆる記憶喪失ものとドッペルゲンガーものと○○○○ものを合わせ技で使ったところが、当時は新鮮だったと推測される。その割に意外とストレートなサスペンス小説であり、今日読むにはいささかインパクトは小さい。

何しろ、原著の出版は1957年。当方が生まれる10年以上も前の作品だ。この作品以前・以後、とメルクマールになっているかどうかは知らないけれど、当時としては新しいテーマだったのだろうが、今となってはいささか使い古されてしまった感は否めない。

そんな本書で、当方が感心したのは終盤で主人公がある人と交わす会話シーン。この種のテーマでこういった会話シーンを描いた作品というのはあまり読んだことがない。もちろん、当方がそういったものを読んでいないだけかもしれないが。それにしても、このシーンのぞくぞくするような感覚を味わうためだけも本書を読んだ甲斐はあったと思う。

なおかつ、本書はまた悲恋の物語の側面を持っていると当方には感じられた。その側面の記述が薄いのは意図的なのか、それとも著者にあまり興味がなかったのかどうか判然とはしないが。今の時代の作家が書いたら、そちらのほうが主となったかもしれない。

とにもかくにも、古参のミステリ・ファンは言われなくても手に取っていると思うので、そうでない方は21世紀にこの幻の作品を新訳で読めるという贅沢を味わうために、試しに読んでみてはいかがだろう、と言っておきたい。


◎本書のお気に入りのセリフ

※主人公が、父の死んだ少年に対し、決まり文句の元気付けをした後のモノローグ

「お祖父ちゃんもおんなじことを言ってた」その偶然に漠たる驚きを見せ、ピーターはそう答えた。彼はまだ幼すぎて、決まり文句というものを知らないのだ。また、悲劇が人類史上とても古いものであるため、その際に使われる言葉はすべて決まり文句になってしまうことも。

(252ページ)
 

◎関連エントリ
  ・ヘレン・マクロイ:『幽霊の2/3』(東京創元社)


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