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石持浅海:『BG、あるいは死せるカイニス』(東京創元社) [book]

BG、あるいは死せるカイニス (創元推理文庫)

BG、あるいは死せるカイニス (創元推理文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/10/10
  • メディア: 文庫

先日、NHKで放映された物理学者の故・戸塚洋二氏のドキュメンタリを視た。氏は素粒子物理学者でノーベル物理学賞を受賞した小柴正俊氏の弟子の一人。番組はその功績とがんとの闘病がテーマだった。番組でも紹介されたブログの中で、氏は科学者らしい視点で自らの病気の症状や進行を記していたが、2008年7月に逝去された。いまでも氏のブログを読むことができる。

さて、本書の作者あとがきでは翻訳家の故・浅羽莢子が本書を誉めてくれていたとの記述がある。それゆえに本書は浅羽氏に捧げられている。その浅羽氏のブログもまた、いまでも閲覧が可能だ。「虎は死して皮を残し、人は死して名を残す」といわれるが、これからは死してブログを残す時代になるのかもしれない。


内容紹介
星降る夜、天文部の観測会に参加したはずの姉が何者かに殺害された。男性化候補の筆頭で、誰からも慕われていた姉が、何故? さらに期末試験が終わった日、姉の後継者と目されていた小百合までもが被害に。姉が遺した謎の言葉“BG”とは果たして何を意味するのか──。全人類が生まれた時はすべて女性、のちに一部が男性に転換するという世界を舞台にした学園ミステリの意欲作。著者あとがき=石持浅海/解説=村上貴史


さて本書だが、結論から申し上げると現段階での著者の最高傑作と感じた。梗概だけを読むと、特異な設定の耽美系ミステリとのようだ。その手は苦手なので、さして期待せずに読み進めた。が、読み始めるや結局とまらなくなり夜半に読了したのだった。

男性が生まれずに一部の女性だけが男性になることができる世界でのミステリ。だからSFミステリかというとそんなことはない。設定はわれわれの住む世界とは異なるが、登場人物たちはわれわれの世界と変わらない日常を送っている。

余談だが、本書では携帯電話やパソコンが登場しない。登場人物たちは友人と連絡をとるのに固定電話、そして調べ物には百科事典を使っている。西ドイツなどの国名もでてくるので1980年代あたりの時代設定だろう。

閑話休題。本書でもまた、著者お得意のロジック合戦が登場人物たちの間で交わされる。これがなければ石持作品ではない。また、少し変わった倫理観もならではのもので、これだけでも堪能できる。

すごいのは中盤を過ぎたあたりの急展開と、終盤で唐突に登場する名探偵だろう。このあたりはネタバレに近いので詳述はやめておく。まずは読んでみて驚いてもらいたい作品。著者の作品でこれほど驚かされたのは初めてだ。


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