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川端裕人:『はじまりの歌をさがす旅』(角川書店) [book]

はじまりの歌をさがす旅 (角川文庫)

はじまりの歌をさがす旅 (角川文庫)

  • 作者: 川端 裕人
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/07/25
  • メディア: 文庫

当地でもストリート・ミュージシャンなるものを見かける。ファンなのだろうか、何人かは座り込んで聴き入っている風情だ。あるいは屋根付きの跨線橋でダンスを練習する若者もいる。躍動、という言葉が相応しいと思うのは当方が年を取った証拠なのだろう。いずれも、人にみられることを臆せず、むしろそのことに歓びを感じているようだ。

それは、MS Excelで難しい関数を組んであげて喜ばれるとうれしいと思う不良会社員も同じだ。人は、自分の得意とするものを他者に提供し喜んでもらいたいという根源的な欲望があるに違いない、とそんなことを思ったりする。


内容(「BOOK」データベースより)
「この航空券でオーストラリアに来て、ゲームに参加せよ」。写真でしか知らない曾祖父の死をきっかけに、謎の旅に招待された隼人。必要な持ち物は、きみの声と歌の言葉―。音楽活動に行き詰まりを感じ、日本を飛び出した隼人だったが、到着早々、案内人に荷物を燃やされ、身ひとつで砂漠に放り出されてしまう。熱砂の中、祖先の辿った「歌の道」を探す、想像を絶する過酷な旅が始まった! 音楽と冒険を広大なスケールで描くスペクタクル。


主人公のモラトリアムなミュージシャンは安定した生活と自分の夢の追求に惑いながらオーストラリアに向かう。それ自体のリアリティは少し疑問な部分もあるが、丁寧に積み重ねられた事実の合間で気にならなくなってくる。

特に前半部分の砂漠地帯におけるサバイバルの物語がいいと思う。探求の物語でもあり、それは物語の最も古い形式ゆえに揺るぎのない構造で以て読ませる。生き延びるためにどんなものでも食うというシーンもリアリティあり。当方はよっぽどのことがない限り幼虫系は食えないけどね。

後半部は少し予想外の展開になるのだが、そのあたりは読んでもらって確認してもらうことにしよう。かなり大規模な動きとお茶の間が同居するシーンには驚いたが。

これまで何冊か読んできた著者の作品は、いずれも二元論で染まっていない状況や登場人物たちの物語だ。すなわち、善玉悪玉というステロタイプではない。おそらく、人間は善悪ひっくるめて人間なのだと著者は考えているのだろう。ならば、著者の紡ぐ物語は我々自身に近しいものだといえる。

著者の小説ではもっもと好きなもの。なかなか一つのジャンルに括りきれない著者の小説だが、食わず嫌いの人がいたらもったいないと思う。ここでは本書をお奨めしておこう。


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