郷原信郎:『思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本』(講談社) [book]
テレビのない生活を始めて約一ヶ月。正直なところ、たまーに見たいと思ったりするのだが、概ね見なくても日常生活に不便はない。テレビがあったとしてもそもそもワイドショーやらバラエティ番組は見ない。見るのはNHKスペシャルくらいのものだから、それはそれで後年にフォローできるだろう。
著者の作品は『 「法令遵守」が日本を滅ぼす 』を読んでいたが実のところあまり深く印象に残っていない。それとは別に見かけた本書で、第6章の「思考停止するマスメディア」という章が興味深く購入。その出来は如何?
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内容紹介
「法令違反」だけではなく、「偽装」「隠蔽」「捏造」「改ざん」などのレッテルを貼られると、一切の弁解・反論が許されず、実態の検証もないまま、強烈なバッシングが始まる。
- 消費期限切れ原料使用を作為的に隠蔽しようとしたわけでもないのに、「隠蔽」と決めつけられ、存亡の危機に立たされた不二家
- 健康被害とはまったく無関係なレベルのシアン化合物の食品製造用水への混入を公表させられ、大量の商品の自主回収に追い込まれた伊藤ハム
- 「耐震偽装」を叩くことに関心が集中、偽装の再発防止のための建築基準法改正で住宅着工がストップ、深刻な不況に見舞われた建築業界
- 刑事司法を崩壊させかねない大問題を抱えているのに、誰も止められない裁判員制度 ○経済司法の貧困により、秩序の悪化に歯止めのかからない市場経済
- 何を意味するのか不明確なまま「年金記録の改ざん」バッシングがエスカレート、厚労大臣にまで「組織ぐるみで改ざん」と決めつけられた社会保険庁
調査委員会などで多くの「不祥事」に関わった著者が、問題の本質に斬り込み、「遵守」による「思考停止」で生じている誤解の中身を明らかにします。その上で、思考停止から脱却して「真の法治社会」を作るための方策を示します。
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と、長々と内容紹介してしまったが、なるほど、普段からメディアリテラシーについては考えていなくもない当方にとっては、不二家の不祥事に上記のような背景があったのか、と読んで理解できた。
その他にも語られる事象からすると、現在のスピーディーに報道される事件などについては、一旦は眉に唾をつけてみておいた方がいいのか、と思わされる。
情報をいち早く手に入れるということはもちろん大切なのだが、中・長期的にみた場合、それらが必ずしも正しい判断に結びつけられる情報とは限らないわけだ。
うーん。著者の主張とかけ離れた理解をしてしまったのだが、情報管理能力とは、いち早く情報収集しゆっくり咀嚼する、くらいの感想となった。そういう勘違い解釈ができる程度にわかりやすい新書である、と言っておこうか。
現在、元検事の方で本当にまともなことを言っているのは郷原さんだけだと痛感いたします。小沢氏、民主党、自民党云々は関係なく、ニュートラルな立場で、バイアスなく正論を言っておられるといつも見させていただいております。他の元検事は何らかのカルト宗教にはまっているような感じさえ受けます。そのまま、おろかな圧力に屈することなく、姿勢を堅持し、当たり前のことを当たり前に見、メッセージし続けてください。
ありがとうございます。
by 勝田秀樹 (2010-02-12 22:43)
このブログを郷原氏のものと間違えてコメントを書いてしまったが、ついでに「法令遵守が日本を滅ぼす」について・・・
これも非常にフラットな目で見たらまさに実情・実態を、まったくずれることなく捕らえた視点で分析している。
医師法、薬事法などもまさに日本を滅ぼすための装置になっている。
憲法を無視したような法律が「コンプライアンス遵守病」患者を次々と集団ガス室に追いやっているような印象さえ、現場では受ける。
郷原氏は以下のように言い放っているが、実態は全くこのとおりだ。
「官庁の認識と経済社会の実情がズレており、官庁発表報道、「法令遵守的報道」をたれ流す御用マスコミが、そのズレを一層ひどくする
・「法令遵守」に埋め尽くされる状況の中で、企業は違法リスクを恐れて、「事なかれ主義」やモチベーション低下、閉塞感が生まれている
・賢明な人はこの構造に気づいているが、表立って口にはしない。法治国家の国民にあるまじき言動と軽蔑されるのが怖いからだ 」
法律と警察、検察が、いまや人体における自己免疫疾患のように、宿主である日本社会を蝕んでいる。今後どうやって血流をまともにし、カラダを保っていけというのか。
日本はいま、深刻な分水嶺に立たされている。
by 勝田秀樹 (2010-02-12 23:14)