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香納諒一『ガリレオの小部屋』(実業之日本社) [book]

ガリレオの小部屋

ガリレオの小部屋

  • 作者: 香納 諒一
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2007/01/16
  • メディア: 単行本

このところ国内エンタテインメントが続いているなあ。もう少し幅広く読まないと。とはいえ時期とか体調とかもあるから自然に任せておいたほうがいいかな。最新作の『記念日』も早く買わねば。期待大です。

さて、本書は著者の短編集としては近作。いわゆるミステリというカテゴリに入るのは最終話の「海鳴りの秋」だけ。そういった意味ではバラエティに富んだ作品集。帯の惹句に「出口のない部屋の住人たち」というフレーズがあり、読了後になかなか的確なものだと感じる。では珍しく一話ずつ所感など。

「無人の市」

  • 新人賞応募原稿の中から見出した男女合作作品の作者は、なぜか男のほうしか姿を現さず…と、謎めいた出だし。いわゆるミステリ作品なら、この後に驚く結末が待っているんだろうが、どちらかというと主人公の編集者の心象風景を前面に出したものとなっている。少し無気味な雰囲気がありぞくぞくする味わいがある。作中には無人の市という言葉が出てこないように思ったが、何を意味してるのだろう。

「流星」
  • 幼馴染だった男女三人の人生の断片を描いた、限りなく普通小説に近い味わいの作品。伊集院静の小説を感じさせます。

「指先からめて」
  • エロ本出版社の編集者となった女性とモデルの友情(?)を描いた作品。この作品集の中ではなぜか最もハードボイルドタッチであったと感じたぞ。

「冬の雨にまぎれて」
  • 「奇妙な味」系ニューロティックスリラータッチの作品。これは山田正紀の作品を思わせる。行き場のない閉塞感が重苦しい。

「雪の降る町」
  • 著者には珍しいファンタジィ作品。こちらの主人公も女性編集者。清々しさと閉塞感が同居する感じの作品だ。

「ガリレオの小部屋」
  • バリバリのミステリを思わせるタイトルだが著者自身を投影した男性を主人公とした(おそらく)私小説。どことなく深い諦念を感じさせる青春小説。

「海鳴りの秋」
  • 冒頭に書いたように今作品集では唯一のミステリ。父子ものの冒険小説だが結末は苦いものとなっている。

著者あとがきにもあるが、いずれの作品も一貫して不協和音が流れているようだ。著者の心象の現われでもあると思う。楽しい小説、というわけではないが、著者の意外な側面を見せてくれるという意味では興味深い読書となった。
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